たばこ広告の幻想
巧みな刷り込み戦略

たばこ産業界の巧みな広告戦略も告発する、平間さんの著作「子供たちにタバコの真実を」
若い人たちに影響力のある俳優やミュージシャンが、さりげなくたばこに火を付ける。そのしぐさをまねて喫煙の習慣を身に付けたという人は多い。「なぜ、人は喫煙ポーズに引かれるのか」という疑問は、たばこ問題を考える上で重要だ。

顔をしかめつつ、マッチやライターの摩擦音を響かせ、ひと呼吸。煙にまどろみ、退廃を気取る。物おじしないゆとり、哀愁さえにじむ雰囲気…。映画やTVの俳優、ロック歌手らの姿が、たばこ絡みの風景にはなぜか欠かせない。

■イメージ■
たばこ産業界の広告戦略にも研究を重ねる平間敬文さん(「無煙世代を育てる会」代表、平間病院長)は、この感覚を「鳥が初めて見たものを親と思いこむ、刷り込み(インプリンティング)の人間版」と指摘する。

「たばこ広告は、ワイルドさや洗練などのイメージを喫煙者に植えつける。たばこがそこにないと格好がつかない環境をすべて演出し、そこに主役の白い巻物が登場して、シーンは完成する仕組みだ」

「これは、そうしたシーンを数十年も見せつけられた人たちの幻想にすぎない。この現象は、親の喫煙を日常的に見ることにも作用している。同じ喫煙風景が目の前で演じられ、いつの間にか意識に刷り込まれる」

それだけに平間さんのたばこ産業界を見すえる目は厳しい。「日本の企業は、名前を出さずにメディアに侵食している。ドラマの撮影場所を提供する替わりに喫煙シーンを入れるなど、米国からのイメージ戦略を踏襲している」と。

ちなみに、二〇〇三月三十一日の「世界禁煙デー」のスローガンは、「tabaccofreefilm,tabaccofreefashion,Action!」。日本語に訳せば「たばこのない映画、たばこのないファッション、はい本番!」となる。

映画界とファッション業界からたばこに関するイメージの撤廃を目指し、世界各国でシンポジウムやイベントが展開される。

■巨大な影■
そうした告発にもかかわらず、平間さんらの禁煙運動の呼び水の一つだった「喫煙と健康に関する勧告」(WHO)の「警告」化が、現実に国民の耳に広く届くことはなかった。

平間さんは「大量のたばこを売ることで利益を得る企業、ばく大な税収源として、また天下り先として利用する各省庁の人々、目先の利益で仕事をする大手広告代理店などにより、たばこビジネスに不利な現実は、すべてコントロールされている」と話す。

日本専売公社がJT(日本たばこ産業)として民営化された一九八五年。日米通商交渉の「外国たばこの関税自由化や宣伝広告」についての議論で、海外の厳しい広告規制方針に対し、政府は自主規制だけで十分と発表している。

規制で販売実績が下降した米国たばこ資本は、八八年四月の日米構造協議で、それまでたばこに掛かっていた関税の撤廃を獲得するとともに、国産たばこと同等に宣伝・広告ができるようになった。広告合戦、販売競争の火ぶたが切られた。国産たばこに関しては、政官業がスクラムを組み業界を守ってきた。

その結果、ちまたでは今も日常的にたばこの広告があふれる。未成年者喫煙防止法で、たばこ販売業者は販売時に年齢確認を義務付けられたが、もの言わぬたばこ自動販売機が、全国で六十二万九千台(二〇〇一年現在)設置され、未成年喫煙者の七割にたばこを売りつけている現実が黙認されている。

「たばこ産業と政府のつながりの強さには、弓を引けない。しかし、たばこが毒物であり、薬物である事実を理解してもらえれば、人々は自然に、このからくりに目を開いていくはず」。平間さんはそう確信している。

前へ −BACKHOME− 次へ