動機は「なんとなく」
喫煙歴20年のOL青戸由紀さん/害よりリラックス

「メンソール系のたばこしか口にしない」と青戸さんは語った
「理由があってたばこを吸っている人なんて、本当にいるの?」

青戸由紀さん=仮名=は、都内の大手デパートに勤務するOLだ。店舗の顔として客と接し、脚光を浴びるポジションにはいない。数年前から商品配送センターに出向し、検品作業など裏方の仕事に明け暮れる。

入社十七年、今のポジションに納得がいかず、やりがいも見いだせない。「仕事だと割り切っている。将来にビジョンを持てないが、会社の冠は気に入っている。結局、辞められないから」と本音を漏らす。

そんな心身の疲れを癒やしてくれるのが、一日ひと箱の喫煙習慣だった。たばこを「覚えて」から二十年が経つ。

■お使い■
青戸さんがたばこを意識し始めたのは、小学六年ごろ。父親に頼まれる「お使い」リストにたばこがあり、自動販売機で購入する習慣からだった。「お駄賃に、お釣りをもらえるのが喜びだった。そのうちに、箱の中味の正体にも関心が向いた」

初めてたばこを購入したのは中学二年。下校途中に制服姿のまま、いつもの習慣で自動販売機で買った。「もちろん興味から。一番軽いものを選んで買ったような気がする」。人目をはばかることはなかった。

両親は、仕事で深夜まで家に戻ることはなかった。食事は母親が準備したものを温めて食べた。自分の行動を見守り、戒めてくれる声はなく、未成年が酒とたばこをペアに、安上がりな冒険を楽しむのには最適な家庭環境だった。

「お酒とたばこを同時に試し、頭がボーッとしていい気分だったのを覚えている。公共の場所で仲間たちと吸った時、周囲の大人が見過ごしてくれるたびに、大人の仲間入りをしたという興奮があった」と振り返る。

■なんとなく■
週末の夜になると、コカ・コーラのラガーシャツやアディダスのスニーカーなど「アメカジ」ファッションに身を包み、渋谷のディスコをはしごした。「子供じゃないということの証明に必要な小道具だったのかもしれない」

盛り場では必ずたばこをくゆらせ、自宅で慣らした大人への背伸びを、仲間たちに見せ付けた。「中学時代は一週間に一本、高校で毎日一本ずつ、週末の遊び場では半箱ほど吸った」

高校卒業後、社会人一年目のある昼休み。先輩社員との食事の席で、「たばこを吸うなら自由にどうぞ」と勧められた。二十歳前だったが制約なく喫煙ができる事実が「なんとなく」うれしかった。

すでにたばこは、彼女にとって生活必需品になっていた。喫煙時の淡い高揚感は失われ、もはや「なんとなく」だけが、動機のすべてに変わっていた。

■そして今…■
青戸さんに、ニコチン依存で「吸わされている」という意識はない。「やめたら太ると思うし…。一人の時や酒を飲んでいる時に吸うけれど、結局は暇をつぶすための道具なんだよね」

そうは言うものの、健康面や体力への影響は隠せない。実際、駅まで数分間の駆け足でも息切れする。でも、青戸さんはたばこの影響とは考えたことがない。否定的な現実を横目に、「年齢のせいだ」と思っている。

法律で守られる道楽が「体に害を与えるとは考えられない。逆にリラックスできる」と語る青戸さん。自分の人生に向けて放った言葉が、印象的だった。「やめたほうがいいってみんな言うけど、やめたら何があるっていうの?」

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