「2003年の事態」解明を
奥井氏のコラムに対する県の「問題点」指摘で、これまでの検証記事で触れなかったのが二、三ある。一つはコイヘルペスウイルス病(KHV)がヒトに感染する可能性(「種の壁」)の問題。KHVは一九九七年にイスラエルで発見された新しいコイの病気。国内でも専門家はそうはいず、県保健福祉部関係の研究所を訪ねたが、取材目的がKHV関連と判明すると口を開くのが重そうになった。
 
このため、行政とは無関係の数人に聞いた。医学関係者は「ブタを宿主とする日本脳炎ウイルスはヒトに感染してヒトを死なせることがある。カモを宿主とするカモインフルエンザウイルスでは、宿主のカモは病気にならないが、感染したヒトにインフルエンザを起こす。質問のヒトとKHVについては知識はないが、ヒトと魚の間には種として、かなりの距離があるので、今の段階で、コイから直ちにヒトに病気を起こすとは考えにくい」と語った。
 
在野の生物学者は「KHVは宿主がマゴイとニシキゴイに限られている。特にKHVは水温二〇―二五度で発生するとされているのに対して、ヒトは体温三六、七度の温血動物なので、感染は生物学的に全く考えられない。コイ産地の一部学校給食から、コイが除外されたのは、科学的無知による決定で問題を残している」と語った。
 
このほか、口頭で県が「誤解を招く」と指摘したのは、十二月三日付コラム「コイヘルペスでアトピーが悪化?」の見出しと、コイに周りを囲まれて泣き顔になっている乳児を描いた併用イラスト。コラム記事本文の記述内容や「水道水の塩素濃度」との小見出しが別に置かれていることからも、本来の趣旨は「水道水の塩素濃度とアトピーとの関係」と受け止められるが、見出しやイラストだけをみれば「コイを食べて乳児が病気に」といった誤解を招くこともないとはいい切れない。
 
アトピーについては近年、乳幼児をもつ母親層を中心に実に関心が高い。三十年以上前の奥井氏自身もそうだが、環境問題への入り口の一つにもなっている。
 
土浦市内の開業医によると、アトピーと水道水の塩素処理との関係を医学的に裏付けるには、膨大な疫学調査が必要となる。しかし、調査が行われデータをきちんと解析し、結果が報告されたとの記憶はない、という。検証取材では、だいぶ前にはなるが、「水道水の塩素消毒について」との標題の付いた七一年六月一日付厚生省(当時)環境衛生局水道課長通知(全文約二千八百字)を医学関係者にファクスで送り、コメントを求めた。
 
通知によると、水道水中の塩素の人体に与える影響などについて、厚生省が研究班に依頼した「水道添加剤の許容量に関する研究」が報告書にまとまったので、参考のために送付するとし、「通常用いられている程度の残留塩素であれば、直ちに人体への悪影響を考慮する必要はない」との判断を付け加えている。
 
この通知に添付されていたのが「総括研究報告書」で、この中で研究班が行った五つの研究結果の概略が紹介されている。うち三つは発ガン性にかかわる研究。残りの「有効塩素のヒト赤血球に与える影響を種々の方法を用いて」行った研究では、最低濃度1ppmで赤血球の表面構造を溶血しやすくした。「ヒト末梢(まっしょう)血リンパ球に次亜塩素酸を作用させた」研究では、10ppmの濃度でリンパ球の幼弱化が高率にみられたとしている。これら二つの研究から、医学関係者は、花粉症などアレルギー症状との関係がないとはいえないと指摘している。

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二○○三年十一月、養殖ゴイの大量へい死が三十年ぶりに発生した。その陰で、この数年、湖内のかなり広い範囲で白濁現象がみられ、今年十月には霞ケ浦では初めてとなる赤潮が発生した。原因は不明だが、真珠母貝のイケチョウガイも白濁水に襲われる中で大量死した。 
 
三十年前は、藍藻(らんそう)類のミクロキスティスが大発生し、水道水の異臭味被害も出た。鹿島地区に工業用水を送るための常陸川水門の閉め切り、異常渇水に伴う水位低下が重なり、原因究明や補償交渉を複雑にした。緊急対策後は「昭和四十八年の事態」として、客観的な状況把握と解明が行われ、後の富栄養化防止条例の制定(八一年十二月)につながった。

今秋の異変続きに対して、一部の専門家や有識者などから「従来の富栄養化対策の枠に収まりきれない要因もある」「むしろ公害問題」との指摘が出ている。この間、県霞ケ浦対策本部や県環境審議会霞ケ浦専門部会の会合は開かれなかった。次は「二○○三年の事態」として解明が求められる。(おわり)



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