「とる漁業」復活への期待
約40年の「幾多の苦難」(三漁協の要望書より)を乗り越え、日本一の産地を築き上げた霞ケ浦のコイ養殖漁業者―。日本古来の「コイの食文化」を支えているとの自負がある。今回のコイヘルペスウイルス病(KHV)問題で急きょ中止された「全国こいサミット」や、恒例化している玉造町の「霞ケ浦水産フェスタ」開催などを通じて消費拡大に向けた県内外への情報発信に力を入れてきた。が、もう一つの側面は、湖内養殖方式だけに、いけす内で飼われるコイの排せつ物や食べ残しのエサによる水質影響を無視できないことだ。

県の試算によると、養殖による汚濁負荷割合は、霞ケ浦の富栄養化防止条例づくりが行われた1981年時点で、リンの21.6%、窒素の12.8%を占めていた。効率のよい飼料の使用、植物プランクトンをエサにして育つ(無給餌方式)ハクレンなどへの魚種転換が進められたが、98年度のデータでは、窒素は6.5%と半分になったものの、リンは19.4%と微減。飲料水源のため環境基準3mg/LのCOD(化学的酸素要求量)に対する負荷割合は、85年、2000年とも7%と変わらない。

86年以降「自主減面」の行政指導が行われてきた。県霞ケ浦北浦水産事務所(土浦市)によると、自動給餌機の付いた稼働中の網いけすの場合、一面当たり10万5千円の助成がある(休業中のいけすは3万円)。設置コストの五分の一ほどの撤去の実費程度だが、業者の協力で86年以降、99年までに1,860面と、31.8%の減少。その後も00年97面(01年ゼロ)、02年31面が減面された。

この中で、ピークの75年に315を数えた経営体数が、自主減面スタートの86年には166とほぼ半減。01年11月調査では霞ケ浦53、北浦11の計64と著しく減少、廃業に次ぐ廃業を物語る。
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近年、ワカサギ、シラウオなど在来型「とる漁業」の水質浄化作用が注目されている。県霞ケ浦対策課が20周年記念に発行した『霞ケ浦学入門』(01年1月)によると、「漁業生産は、湖内から魚を湖外へ取り出すことにより、直接的に魚体に含まれる窒素、リンを除去しており、漁業生産の増大は水質浄化を推進する」。逆にみれば、総漁獲量の激しい減少は、水質浄化機能の低下といえる。「霞ケ浦北浦の水産業の存続」(三漁協)との表現は、単に漁業内部の問題にとどまらない側面がある。

KHV対策に関するアサザ基金の要望書でも、「逆水門の柔軟運用によって『とる漁業』を復活させることで、漁業経営の安定化を図ることを提案する。『とる漁業』の復活は、魚という形で湖内の窒素やリンを効率よく取り出すという意味で、水質浄化にも大きく寄与する」と、「とる漁業」の浄化作用に注目している。
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霞ケ浦市民協会による月1回の湖水定期観測は、四年前に始まった。溶存酸素やPH、CODなど一般的な水質項目に、「水色」の項目が加わったのは白濁現象が気掛かりになった01年10月から。「黄緑白濁」「黄土白濁」「茶白濁」など、肉眼で観察された湖水の色を6地点ごとに、会報「霞ケ浦NEWS」に記載を始めた。これら着実な観測の積み重ねが今年10月、霞ケ浦で初めての赤潮生物、珪藻(けいそう)類のスケレトネマ・ポタナスの優占(大量発生)を関係者の協力で突き止めることにつながった。

一方、養殖を含む漁業者は日々湖に出ているだけに、優占する植物プランクトンの種類などを反映する湖水の色や、エサを食べて育つ魚介類の様子・育ち方から「異変」をいち早く察知することができる。今回の異変についても、そうだった。こうした漁業者の湖水監視作用も、行政や市民には歯がたたない点だ。

県漁政課は、検証取材に対し、四種類の天然魚を対象に行ったKHV感染状況の検査結果を示した。トロール漁で11月18日に捕獲したワカサギ、シラウオ、テナガエビ、ハゼの各三検体を財団法人・新潟県環境衛生研究所に送り、検査したところ、ウイルスは全く検出されなかった。改めて「KHVはコイ以外の魚や人への感染はなく、人体への影響についても全く問題がない」と強調している。

未曾有の危機下にある、内水面漁業全般にかかわる抜本的な振興策が求められる。汚濁負荷型から水質浄化型へ、霞ケ浦北浦漁業にベクトル変更を促すことができれば、受益者は漁業者に限られない。約40年前、コイの網いけす漁業を湖内に導入した直接当事者(県)だけでなく、97年の河川法改正で「環境」を新たな柱に加え、水質浄化を最重視して底泥しゅんせつなどを進めている霞ケ浦の管理者(国土交通省)にも相応の役割が期待される。



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