医師・作家 佐賀 純一氏

国宝級の八柱神社彫刻群/筑波山周辺の文化財見直しの契機に

■さが じゅんいち■
1941年土浦市生まれ。慶応大医学部卒。国立栃木病院、ハワイ・クワキニ病院を経て、土浦市で開業。「絵と伝聞 土浦の里」「霞ケ浦風土記」「浅草博徒一代」「氷雪のバイカル」「ちじらんかんぷん」など著書多数。米国のシンガーソングライター、ボブ・ディランが「浅草博徒一代」から歌詞に引用したとして海外からも注目を集め、ニューズウイーク日本版の「世界が尊敬する日本人100人」にも選ばれた。
TXの開通はバラ色の夢ばかりではない。逆に都内に人口を吸収されるストロー現象を憂慮する声も出ている。 「芸術文化のあるところに人は集まる。東北新幹線ができ、地方都市は逆に閑散とした。秋葉原には三越もあるし、日常の欲望を満たすためにTXがあるとしたら、同じことになる」

それでは、そうならないための方策はどこにあるのか。佐賀氏はまず東京にはないが、本県にあるものとして、美しい自然、歴史、文化などを挙げる。

「茨城県には常陸風土記がある。そして、当時の地名がすべて残っている。こんなところは関東地方のどこにもない。これを機会に、筑波山周辺に散在する文化財を見直そう」と訴える。

「東京は世界でも屈指の大都市。筑波山は日本で最も古い地層にできた山。TXにより、この二つが結び付く。万葉集で筑波山は三十八首詠まれているが、冨士山は十五首。かつては筑波山が日本一の山だった。TXの開通を契機に、筑波山を日本一の山に復権させたい」

佐賀氏は土浦市大岩田の鹿島神社奥殿の唐夫人像をきっかけに、八柱神社、雨引観音、筑波山聖天宮、西光院立木観音などを丹念に調査、筑波山周辺に栄えた密教文化を掘り起こした。この成果は「歓喜天の謎」(一九九二年、図書出版社)にまとめられている。

特に、真壁町の八柱神社の彫刻群は国宝級と高く評価。「聖天堂で国の重要文化財に指定されているのは、埼玉県妻沼町の聖天堂と兵庫県歓喜天聖天堂の二件だけ。しかし、兵庫県の聖天堂は非常に規模が小さいし、妻沼のものよりも八柱神社の方が彫刻のレベルが高い。八柱の彫刻は一つの物語となっており、全国どこを探してもない」と力説する。

「TXで東京から来る観光客向けに、八柱神社の彫刻の絵はがきを制作したり、筑波山、八柱神社、薬王院、西光院などをめぐる観光ルートを作ったらいいと思う。筑波山の歌(かがひ)も現代風に復活させ、百人一首やオペラを筑波山神社などで楽しんだらいいのではないか」と提案する。

昨年、八柱神社の、医術を極めた中国古代の仙人像を収めた彫刻群七面と闘争から平和の世界へ至る姿を描いた唐子彫刻を題材にした童話をまとめた(近く本紙に連載予定)。

「『TXが来た、文化も崩れた』では困る。『TXが来て、文化も栄えた』というようにしたい。そのきっかけとして、八柱神社などを見学して文化を感じてもらいたい。神社は境内で子供たちが遊ぶようでないとだめ。子供たちに遠足などで足を運んでもらいたい。八柱神社が子供たちに愛される神社になるきっかけになればうれしい」と遠くを見詰めた。

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