![]() ファームラボ 代表取締役・熊谷俊高さん |
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ITからバイオへ転身の「偶然と必然」
そもそも電通大在学中は、物性物理で量子力学的な分子の振る舞いなどのシミュレーションをやっていた。九六年に、ネットスケープが出てきたころ、ITブーム前夜に渋谷で創業したITベンチャーに参画、取締役となる。IT技術を応用した新しいマーケティング企画を、レコード会社や出版社にネット時代のビジネスモデルとして提案をしていた。 二〇〇〇年、ITバブル崩壊の前に業界を見切って、好業績だったその会社を辞めた。理由は、「IT業界は参入障壁が低い。いずれ、大手が出てくるとプロバイダーのように、アッと言う間に市場が蹂躙されてしまうと予想した」から。 『バイオインフォマティクス(生物情報学)』という新分野を、旧電総研の数値モデル知識計算チームリーダーの浅井潔が、奈良先端科学技術大学院大学の教授を併任して教えると聴いて、急にやってみたくなり入学した。二年目からは、つくばに移って電総研でオンザジョブトレーニングとしてゲノム(遺伝子)解析を始めた。 ここで、熊谷が没頭した『バイオインフォマティクス』とは一体どんな世界か?「タンパク質の立体構造を決定するのに、スパコンで何度も計算するというのは、物性物理と似ているし、天文学をやっていた人なども入ってきていました」。世紀末にITとバイオが突然融合して生み出された、時代の花形分野が『バイオインフォマティクス』である。 当時、旧生命研の分子細胞工学研究部門リーダーの町田雅之が麹菌を精力的に研究していた。米国のバイオベンチャーが、「麹菌のゲノム解析をやる」とプレス発表した。ゲノム権利の囲い込みをされると、特許料を払わないと味噌も醤油も酒も作れなくなる。 その危機感の中、一九九七年、伝統発酵産業も入って、産官学の日の丸コンソーシアムを結成。国菌とも言える産業微生物、麹菌のゲノム解析に先立ち、まず、EST(発現断片配列)解析プロジェクトは、町田たちの努力で二〇〇〇年には成功を収めた。 次に、ゲノム解析の段階に入り、町田がこの分野の権威である浅井に相談に来た。熊谷の指導教官の浅井は「麹菌はヒトやマウスに比べて単純でゲノム解析も簡単なはずだから、ここにいる院生の熊谷君の練習問題にちょうどいい」と答えたのがプロジェクトの始まり。 卒業後、熊谷はそのまま、誕生したての産総研へ就職。時期を同じくして、各種の『アスペルギルス(カビ)』の解読プロジェクトが、世界中で進行していた。日本独自で進めていた『アスペルギルス・オリゼー』(麹菌)のゲノム解析もこれと同調することとなった。 瓢箪(ひょうたん)から駒の如く巨大化したプロジェクト。その情報処理を、熊谷が一手に担当することとなった。日本単独では単細胞レベルで初めてのケースとして、約37MBの麹菌全ゲノム配列解読が、昨年遂に完了。現在論文を国際論文誌に出稿して評価を待っている。 そして、ポストゲノムと呼ばれる解読されたゲノム情報を応用技術として活用する会社を、産総研発ベンチャーとして設立することになった。ベンチャー経営の経験者として、熊谷に社長の椅子が突然回ってきた。 社名のファームラボは、Fermentation(発酵)からきた造語。「製薬以外ではゲノムなんかやっても金にならないと言われてきました。しかし、多くの人がまだ具体的な方法に気がついていないだけで、ゲノム解析の結果は新しい産業を生み出すのに必要不可欠な基礎となるはずです」と、この成長分野の先駆者として、最初のドライブを目指す。「ここ五年で、欧米のゲノム解析が、スゴイ速度で進んで行き、世の中がアッと言う勢いで変わっていく」と予言する。(花山亘 つくばベンチャー協会事務局長、NPOつむぎつくば理事、敬称略) 【会社概要】東京都江東区青海2の42(独)産業技術総合研究所内。電話:03・5500・6248。2004年12月創業。資本金1250万円。麹菌の全ゲノム塩基配列を利用した、ポストゲノムの応用技術の商品化。 | |
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