MCBI 代表取締役・内田和彦さん

ノーベル賞の成果を活用

「純粋な学術的な意味での研究成果のブレークスルーも実現できれば最高」と幾多の困難を乗り越えた柔和な表情で語る内田さん
「ノーベル化学賞を受賞する約半年前、田中耕一さんが島津製作所との共同研究を立ち上げる際、技術担当者として、質量分析装置の説明に、筑波大学に来てくれた」と、疾患タンパク質研究プロジェクトの歴史を振り返るのは、株式会社MCBI代表取締役の内田和彦(一九五七年生まれ)である。

そもそも、内田は、筑波大学の基礎医学系の助教授として、がんの早期発見システム「ゲノム・プロテオームをベースにしたプロファイル診断システム」の研究を重ねてきた。

舌をかみそうな研究テーマである。要は、質量分析技術を利用して、「『疾患』と『健康』間を比較することにより、がん細胞に侵された生体細胞の微妙な変化を『タンパク質の変化』という形で、指標―バイオマーカーとして利用できないか」と、内田は考えた。そして、いち早く実用化しようという研究開発プロジェクトをいち早く立ち上げたのだ。

この「質量分析」という、全く新しい概念による検査システムを、まず、研究室レベルで研究していたのである。そして、この検査システムに欠くことができないのが、田中耕一にノーベル化学賞をもたらした、レーザーによりタンパク質を気化、検出する「ソフトレーザーイオン化法」であった。

この理論に基づき開発されていた「比較定量プロテオミクス技術」を活用した測定システムは、MCBI社の心臓部を構成しており、現在も島津製作所などと提携して、事業を進めている。

内田たちのこのプロジェクトの成功は、すなわち、田中耕一が受賞したノーベル化学賞の価値の実証にも通ずる、科学史においても重みのあるものである。

「通常、数人で運営される大学発ベンチャーが多い中で、弊社は、共同研究の仕事などを、国の予算で行っているため、十六人のスタッフを抱えている。研究予算の半分は、自社負担となる助成のため、資金が不足しがち。しかし、誰かが、用意してくれるわけではない。自分たちで、資金を集めるなど、さまざまの努力をするしかありません…」と、起業の厳しさを語る。

なぜリスクをとって、ベンチャー企業を立ち上げたのか?

「産学官のプロジェクトと言っても、最終的に単に報告書や研究論文を書く事だけで終わる例もある。幾つものプロジェクトを研究者として経験していく中で、せっかくの研究成果を、目に見える形で、社会に還元するためには、何とか製品化しなければならない」と、真剣に思うようになってきたのだという。

そのためには、「困難なのは分かっていたが、大手企業と連携しながらも、自らがビジネスの現場に立ち、自分たちが設立したベンチャー企業が、ドランビングフォースとなって共同研究の成果を製品化するしか方法はない」と確信して、MCBI社を設立したのだという。

今年度中には、開発が完了したソフトウェア「質量分析計による比較定量プロテミオス解析ツール」を発売。会社設立五周年の来年度には、ついに、がんの早期発見のための検査システムが完成し、大学病院などの高度先進医療機関で、お目見えできる予定である。

「ビジネスの現場ならではの、激しい競争社会の中で切磋琢磨(せっさたくま)することで、純粋な学術的な意味での研究成果の方のブレークスルーも実現できれば、それが最高です」と幾多の困難を乗り越えた柔和な表情で内田が語る。

「基礎研究を基盤に、研究面でもビジネス面でも、両面で実績が上がって行くことが、大学発ベンチャーの本質的な意義ではないか」と、あくまで、研究者としての経営姿勢を貫く。
 (花山亘 つくばベンチャー協会事務局長、NPOつむぎつくば理事、敬称略)

【会社概要】つくば市二の宮1の23の6セキショウつくばオフィス2F。電話029・855・5071。2003年1月30日創業。資本金・9060万円。病態診断システムならびに体外診断薬の開発、製造、販売。解析システム・ソフトウェア・データベース製品の開発、製造、販売。遺伝子・タンパク質の解析受託・調査研究受託ならびにバイオIT・臨床バイオインフォマティクスに関するコンサルティング。http://www.mcbi.co.jp/


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