モーハウス
光畑由佳(みつはた・ゆか)さん

「授乳服」誕生物語 

青山の「こどもの城」の隣のビルに、授乳服専門のショップを開いた光畑さん
「女性は、子供を産む機械」と発言する大臣など論外だが、決して理解できない女心を理解できるのは、やはり同性の経験者なのかもしれない。「これぞ究極の少子化対策!」というのが、本日のテーマである。

ドーナツ状の土手のような奇抜な家を、夫の実家に近いつくば市の万博会場の近くの団地に建てた。当時、建築書の編集者をしていた主人公は、こうしてつくば市民となった。そして、マスコミにたびたび取り上げられ、つくばで最も有名な一戸建て住宅をベースに、誕生したのが、今回取り上げる「授乳服」である。「モーハウス」ブランドを打ち立て、女性の時代をリードするのは、モネット有限会社代表取締役・光畑由佳。

元々は、文化事業戦略で知られるパルコで、美術企画部のキュレーターとしてキャリアのスタートを切った光畑は、束縛を嫌い自分のセンスに任せて人生を切り開く、屈託のなさがあった。「中に住むことができるアート」として建築に興味を持ったのをきっかけに、建築書の編集者に転職。そこで知った何十人もの建築家の中から、この人に、と頼んで出来たのが、科学万博会場に隣接するあの有名な一戸建て。つくばセンタービルを設計した磯崎新の門下の建築家によるものである。

峰竜太が司会を務める、ゴールデンアワーのバラエティー番組に日本一ユニーク家として取り上げられてからは、ひっきりなしの取材攻勢を受けた。一九九四年、そもそも、施主が気楽に建築家に家の設計を依頼して家を建てられることをたくさんの人に知らせ、手伝いたい。そのためのモデルケースとして、先ず隗(かい)より始めたこの試みが、全国的な注目の的となった。

最初の子供が誕生して間もないころ、取材陣が押し寄せ、その対応をしている時に、母乳を与えることを控えていたら、おっぱいがわずか一日で止まってしまったのだ。慌てた光畑であったが、後の祭り。家の取材対応と建築雑誌の編集の仕事は、当時始まったばかりのEメールを活用して続けた。三年後、少し落ち着いてきたころに誕生した第二子。

今度こそはと、「一歳半までは、母乳で育てる」を、実践しようと考えていた。ようやく母乳が出るようになり、子供が一カ月になったある日、立川の友人宅に遊びに行くことになった。高速バスから中央線に乗り継いだ。

吉祥寺を越えた辺りで、娘が、突然大声で泣き出した。慌てる光畑を襲ったのは、三年前の悪夢であった。「授乳を我慢すると、またおっぱいが止まってしまうのではないか」と。乗客は減ってはきていたが、思い切って胸をはだけて授乳を始めると、周囲の刺すような冷たい視線を感じた。「この人たち、私がおっぱいを電車の中であげてることをみんなに話すんだろうな」などと考えると恥ずかしくて堪らない。

立川の友人宅に何とかたどり着いて、コトの顛末(てんまつ)を話すと、「信じられない! 人前でおっぱいをあげるなんて…」という友人の言葉が、編集者・光畑を、ファッション業界へと誘った。「まるでひもにつながれているかのような母親たちを、精神的にも自由に解き放つための授乳服をつくるしかないのだ」と決意した。

「授乳服」誕生物語 


光畑さんのユニークな一戸建てとその中で開かれるセミナー
写真展のキュレーターや建築書の編集者として、情報発信してきた光畑由佳が、いきなりファッション業界に突入することとなった。「展示をしたり本を作るわけじゃないけれど、今度は、授乳服をつくることで、情報発信できる」と、基本は、やはり編集者。これまで培ってきた人脈を手繰り寄せ、手探りで「授乳服」づくりに挑んだ。日本には『授乳服』という言葉すら知られていなかったころのことだ。

「日本の着物は、実はよくできた授乳服だと気付いたのです。脇のところから、おっぱいを上げることができた」のだという光畑。日本の着物の特性を、旨くアレンジして現代的なファッションに仕上げることができたのである。

「売れなきゃ、売れないで良い…」との無手勝流で、一九九八年、授乳服の国産第一号を「モーハウス」ブランドで発売にこぎつけた。そして、ユニークなことで知られるつくばの自宅に、赤ちゃんを持つ母親たちを集めて、「授乳服サロン」を開いた。さすがに筑波研究学園都市のお母さんたちは、さまざまなキャリアを持っていて、いろいろなアイディアを出してくれた。

「どうしても、解決できないのが価格帯でした」と、光畑は振り返る。原価で数千円かかる授乳服に、子供のいるお母さんたちの財布のひもはキツかった。「母親たちは、子供のためならまだしも、自分のためにお金を使うことができない」のだ。母親たちが、自分に対するリスペクト(尊敬)が、全く不足していることに、光畑はがく然としたという。そこで「快適お産・おっぱいライフ」なるイベントを定期開催して、その意識改革に重点を置いた。ここで始まった「授乳ショー」は、後に愛・地球博でも開くことになる。

そんな時、NHK出版の雑誌『すくすく赤ちゃん』に、モーハウスの授乳服が、二nにわたって紹介された。反響は大きく、通信販売のエリアは、一気に全国に拡がった。光畑が感じた、編集者の直感は、子育てに奮闘する女性たちの女心をギュッと掴んだのである。

あれから十年。ファッションタウン青山の中心、「こどもの城」の隣にショップを構え、世界初の授乳服ファッションショーを開催するに至った。女性企業家としても、経済産業省の「IT経営百選」最優秀企業に選ばれるなど、経営者としても頭角を現してきた。

夫婦別姓法案が通らないから、優秀な女性キャリアたちが結婚しないのだ、と作家の渡辺淳一が週刊誌のエッセイで書いていた。時間とお金が掛かるから、子供を作らないのだという単純思考で、少子化対策を立てるべきではない。「女心を理解せよ!」であろう。

光畑たちのつくばからの手作りの挑戦が、大成功を収め、日本の子育てを変革して、女たちに希望を与えることを切に望みたい。もっとも、女だけが子育てをする時代は、とうの昔に終わりを告げているはずではあるが。

(花山亘 つくばベンチャー協会事務局長、NPOつむぎつくば理事、敬称略)

【会社概要】代表:光畑由佳 モネット有限会社 http://www.mo-house.net/ 本社:〒305―0836 つくば市山中480―38 TEL029―851―7373 FAX0120―473―734 ショップ:〒150―0001 東京都渋谷区神宮前5―52―2青山オーバルビル1F TEL&FAX03―3400―8088 設立:1997年12月資本金:300万円事業:Mo―House(モーハウス)のブランドで、赤ちゃんを持つ母親用のファッショナブルな「授乳服」を製作・販売している。女性の自立を、ファッションから応援する。光畑が代表取締役を務めるモネット有限会社で運営している。

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