株式会社アストラックス
山崎大地(やまざき・たいち)さん

宇宙に行きたい! 

 帝国ホテルのロビーにて、インタビューに答えてくれる山崎さん
人類が初めて打ち上げたソ連(現ロシア)の人工衛星スプートニク1号の成功から半世紀。最近では中国の宇宙船・神舟5号が、二〇〇三年十月にソ連、アメリカ合衆国に次いで、三番目に有人宇宙飛行に成功した。日本は、周回遅れのランナーとなってしまった。有人と無人では、宇宙開発技術のレベルが、はるかに異なるからだ。

わが国の宇宙航空開発研究を行う機関は、独立行政法人・宇宙航空研究開発機構JAXA(ジャクサ)である。皮肉なことに、JAXAは、中国が有人宇宙飛行に成功した同年同月に、宇宙科学研究所(ISAS)、航空宇宙技術研究所(NAL)、宇宙開発事業団(NASDA)が統一して誕生している。

そのJAXAが、設立の直後、巨額の国家予算を使いながらも、無人のH―Uロケット6号機打ち上げにすら失敗する一部始終を目の当たりにした多くの国民は、わが国の技術力に大いに落胆したのではないかと思う。そして、このダメージは、漠然としたわが国の技術力に対する不信感として、ボディーブローのように、効いているのではないか。

日本の宇宙飛行士は、すべてNASA頼み。こんな暗澹たる日本の宇宙開発の現状を打破しようという男が現れた。ロシアから中古の宇宙船を買って見せたホリエモンではない。その男は、株式会社アストラックス・代表取締役の山崎大地(一九七二年生まれ)である。

民間宇宙開発ベンチャー企業、アストラックス社は、昨年、茨城県及び財団法人茨城県中小企業振興公社主催の、「平成十八年度ヤングベンチャービジネスプランコンペいばらき」で奨励賞を受賞。

また、今年三月、経済産業省後援、中小企業基盤整備機構主催の「ドリームゲート・グランプリ」の「グランプリファイナル」七社に選ばれ、最高経営責任者の山崎が、来るべき宇宙旅行時代のビジネスの展望をプレゼンテーションした。

そもそも、天体少年だった山崎。父親は、大手電機メーカのエンジニア。自宅の作業場には、有り余るほどの工具や資材があふれていた。手製の望遠鏡を組み立てた。故郷の鎌倉の夜空に、大きな土星の環を見つけた時、山崎の運命が決まったのかもしれない。ボーイスカウト活動で訪れた米国のスミソニアン博物館で見た、生の宇宙開発の姿に魅せられた。科学館の図書館にあった『スペースシャトル搭乗員マニュアル』が、さらに宇宙への興味を掻き立てた。

宇宙工学科のある大学を選んで進学。三菱スペース・ソフトウェアに就職した。そして、つくばの宇宙航空研究開発機構(JAXA)の下請け企業の管制部門に出向。山崎たち管制官の仕事は、国際宇宙ステーションの組み立て、起動の手順書を書き、宇宙飛行士に指示すること。

NASAでの訓練も一緒に受けた日本人女性宇宙飛行士と電撃結婚。子供を設けた後は、訓練スケジュールの厳しい妻に代わって「主夫宣言」した山崎。子育てのために職を辞し、家庭に入った「理解ある夫」として、全国紙のヒト欄や女性誌から、ひっぱりだことなったのだが…。

宇宙に行きたい! 

 宇宙飛行士姿の山崎さん、つくば研究支援センターのオフィスにて
女性日本人宇宙飛行士の夫という立場で米国に渡っても、生活のサポートは何も受けられなかった。米国での就労許可どころか、長期で生活するのには欠かせない社会保障番号を取得することさえできず、携帯電話一本買うのにも苦労した。山崎のようなケースを、JAXAが想定していなかったのだ。

もがき苦しんだ挙げ句に、他の日本人宇宙飛行士やその家族と協力して自力で米国永住権の取得を目指し、それまでの間は並行して日本で起業、ビジネスマンとして米国を訪問すれば、一時的だが問題が解決することに気付いた。いったん日本に帰国した山崎は、JAXAの管制官時代にランチに通った隣のつくば研究支援センター(TCI)に、創業支援のポスターが張ってあったのを頼りに相談に訪れた。

看板に偽りなし。「スタッフは大変親切で、アッという間に会社ができ、TCIにオフィスを構えるにいたった」。その後さらに事業内容に合わせて二社を設立。事業の柱は、国際宇宙ステーション(ISS)の運用準備支援と、民間商業宇宙飛行士「ミッションコマンダー」の育成。さらに言えば、自分自身が、民間の宇宙飛行士になることであった。

ISSの管制官時代、建設中の国際宇宙ステーションの組み立て・起動・運用手順書をNASAの管制官らと擦り合わせて書いていた。想定されるあらゆる不具合や異常事態、ヒューマンエラーの可能性などを考慮し、宇宙飛行士や管制官たちが実施する手順やフライトルールを、国際的な文書にまとめていく。

「想定外の緊急事態が起きたとしても、宇宙飛行士というものは、管制官の新たな指示なしでは、いかなる作業も行うことはできない」のである。そんな責任の重い仕事をしていた山崎が、民間レベルの宇宙飛行士になることは、あるいは簡単なことなのかもしれない。

既にロシアの宇宙船で宇宙に行った民間宇宙旅行者が五人いる。米国の商業宇宙飛行も、ほとんど実用化寸前のところまで来ているという。豪華海外旅行の次に来るものは、大宇宙旅行時代。まだ、リアリティーが沸かない日本の現状に風穴をあけるのが、山崎の仕事なのかもしれない。

「日本の宇宙開発や宇宙利用の分野は、まだ広く民間に開放されていない。どちらかというと、宇宙開発は国がやるべきで、民間が独自でやってしまっては困るという囲い込みの状況が続いている」という。だが、世界や宇宙のレベルに視点を広げてみると、そんなことを言っている場合ではないことが見えてくるのだ。

「宇宙分野も研究開発の段階から抜け出し、優れた技術と人材をうまく利用して、誰もが気軽に宇宙を利用できる段階へ早急に移行させないと、宇宙開発自体の存続にも影響してくるだろう」というのが山崎の主張。

宇宙ベンチャーという山崎の画期的なチャレンジが、どのような成果をこの国にもたらすのか。「新たな道を切り開くのは非常に苦労を伴う。だが、日本もやれば必ずできる。われわれの手で宇宙船を作ろう。そしてみんなで宇宙へ…」となることを祈念したい。
(花山 亘 筑波大学非常勤講師、NPOつむぎつくば理事、文中敬称略)


【事業概要】株式会社アストラックス http://www.astrax.biz/ 代表取締役:山崎大地 所在地:〒305―0047 つくば市千現2―1―6 資本金:50万円 設立:2006年7月 事業:民間商用宇宙飛行士「ミッションコマンダー」の育成。先進宇宙利など、民間宇宙ビジネスの展開。


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