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経済評論家 杉田暁
ペイオフは「床の間の刀」
気を引き締めるための存在
前回の本欄(五月八日掲載)に続き、来年四月に迫ったペイオフ(預金の払い戻し保証額を元本一千万円とその利子までとする措置)を取り上げたい。次のような疑問が時々、呈される。
 (1)一千万円を超える預金を持っている人は金持ちだけで、庶民には関係ない。
 (2)金融機関は、全額保護の新しい預金を導入するので、ペイオフ解禁の影響はない。
 (3)解禁されても、ペイオフは実施されないのではないか。

(1)については、必ずしもそうではない。特にマンション住まいの人は、他人事と言っていられない。百戸あるマンションの修繕積立金は、月二万円としても、五カ月で一千万円に達する。マンションの管理組合は、数億円の資金を金融機関に預けているのが普通だ。また、中小企業が原材料費などの支払い目的で、一時的に一千万円を超える額を預金する例もありそう。たまたま、その間に金融機関が破綻したら悲劇だ。

(2)の全額保護を目的とした新型預金については最近、多くの金融機関が導入を検討している。「決済性預金」と呼ばれるこの預金は、利息が付かない代わり、金融機関が破綻しても全額が返済される。現在のような超低金利なら、利息が付こうが付くまいが同じなので、心配な人は決済性預金に預け換えればいい。

しかし、何年か後に金利が上がっていた場合、利息ゼロでも構わないと言い切れるかどうか。そういう状況では、当然、物価も上昇するから、決済性預金に資金を寝かしておけば目減りする。安心と利益のどちらを優先するか、悩みそうだ。

(3)は、いい点を突いている。政府は、一九九〇年代初めに東洋信用金庫が破綻した際、ペイオフの実施を検討したが、踏み切れなかった。(1)に書いたような可哀相な人が出てくるし、安全だと思っていた預金が返ってこないとなると、パニックが広がる恐れがあったからだ。

その後、公的資金を投入して金融システムの動揺を抑える政策的な仕組みが整備されたので、ペイオフが実行しやすくなった。政府も、使ったことのない政策手段を試してみたいだろう。とはいえ、昨年末に佐賀銀行を襲った迷惑メール事件の例を見ても、パニックが伝播するスピードと規模は、軽視できない。

仮に実施するとしても、高額預金がほとんどない小規模な金融機関をテストケースとして選ぶ程度ではないか。政府は、予定通りペイオフを全面解禁するべきだが、ペイオフは、気を引き締めるために床の間に飾られた刀のような存在と言える。



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