header
経済評論家 小倉豊
失われた「10年+α」は終わるか
回復持続なければ元のもくあみ

この十年以上、金融システムの安定に奔走してきた金融当局高官が、最近の情勢について、問題終結へ重要なブレークスルーがあった、としみじみ語った。二〇〇四年三月期の大手銀行決算の仕上げ段階で、UFJグループの財務・資本状況を巡る、金融庁との正面衝突が公然と報じられた。結果は、苦肉の生き残り策として、大口向け信託機能の売却という経営の激震に至ったものの、株式を始め金融市場は平穏。それどころかUFJホールディングスの株価は、かえって上昇した。数年前までなら空売りの嵐で断崖に追い詰められ、金融株を基点に市場は売り一色になっていたところだ。

「失われた十年」というフレーズを最近聞かないのは、もう、バブル崩壊(おそらく株なら一九九〇年初、土地なら九一年半ば)から十年をオーバーしたからだろう。結局、この間、まずは不良債権(企業の債務)、やがて設備、雇用の過剰問題がどうしようもなく表面化し、その調整にためらいながら時間を空費していた。ぜい肉がたっぷり付いた日本経済は、米英的に俊敏な状況適応力を失い、よたよたと低迷を続けた。財政出動のカンフル剤、小出しの金融システム対策、IT(情報技術)中心の海外景気などで、成長率が持ち直し、株価が二万円を突破する局面も三度ほどあったが、日本経済が内外からの信頼感を取り戻し、すっくと立ち上がる姿には程遠かった。

だが今、前述の金融情勢からみて、既に不良化した債権・債務関係はかなりほぐれ、メガバンクの一角が多少動揺しても、経済全体の問題には波及しない信頼感は得たのだろう。設備、雇用の調整も進展している。そして、あれほど深刻さが語られ、出口が見えなかったデフレ状況。これについて、最近、かなりの数のエコノミストの意見を集めてみたところ、二〇〇五年度か〇六年度に脱却可能との意見が大勢だった。もちろん、二・四半期連続の年率換算6%台、5%台もの実質ベースの高成長率は減速しよう。しかし、それを調整に止め、緩やかでも回復を持続させるのがデフレを終結させる条件だ。

ただ、気になるのは、この先二、三年間で内需主導の自律回復が実現する、つまり個人消費のエンジンが正常な推力を取り戻して、多少の海外経済の波乱には耐えられる、とまで語る人はほとんど見当たらないことだ。やはり世界経済の好調で、企業業績と設備投資は強いというのが頼みの綱。これが根拠なき楽観でなければよいのだが。

別に、悲観論をあおる気はない。しかし、企業が労働分配率を抑えざるを得ず、家計の可処分所得が伸びず、個人消費がいまひとつひ弱い、という状況が続くなら、デフレは収まらないのではないか。国際商品先物への投機がインフレに導くとでもいうのか。中国、東アジア、米国から吹く追い風が止むと景気が腰折れし、それで元のもくあみとなるのはもうご免だ。他人頼みはよそう。自律に向けたもう一段の突破。きっと必要な、それは何なのか、今だからこそ考えたい。



BACKHOME