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経済評論家 杉田暁
金融ノウハウ乏しい郵貯
民営化後、クジラの運命は?
郵政事業の民営化、特に郵便貯金と簡易保険をめぐる議論を聞いていて、いつも疑問に思う。民営化されると、強くなるのか、弱くなるのか。別の言い方をすれば、民間の金融機関、保険会社にとって、手強いライバルになるかどうか。

民営化の議論で示されている視点の一つに、「民業圧迫」がある。全国に張り巡らされた郵便局の数は二万四千七百。郵貯の残高は二百三十兆円で、メガバンク四行を合計した預金量に匹敵する。簡保の総資産は百二十五兆円と、民間最大手である日本生命保険の三倍。郵貯と簡保を合わせた規模は、民間の金融機関と保険会社の実に六割に達する。

つまり、郵政事業は「池の中のクジラ」。自由に泳がれると、津波を起こされ、小魚たちは陸に打ち揚げられてしまうという懸念が呈されている。

逆に民営化後を心配する声も上がっている。現在、郵貯と簡保には政府保証が付いているが、民間会社になれば年間二千億円にも上る預金保険料を払わなければならなくなる。利益には法人税もかかる。この結果、経営が行き詰るという見方だ。

どちらの議論が的を射ているのか。新聞の解説記事の多くは、中途半端な民営化に終わる恐れを指摘している。民間にはない特典を持ち続ける郵貯・簡保は、民間金融機関にとって脅威になるということだろう。果たしてそうだろうか。

旧国鉄には、新幹線という世界に誇る技術力があった。一方、郵政公社には調達、運用、資産・負債の管理(ALM)のどれをとっても、さしたるノウハウを持っているわけではない。純粋な民間金融機関としては、はなはだ頼りない存在だ。

郵政公社のネットワークの四分の三は、特定郵便局が占める。この日本独特の制度は、明治政府に自ら郵便局網を構築する力がなかったため、地元の名士を局長に任命し、彼らの自宅を郵便局として使ったのが起源。長い歴史の中で、特定郵便局長は政治力を蓄え、いまやそのOB会は自民党の最大の支持基盤となっている。

だから、民営化後も都市部で高い家賃を払っている郵便局や山間地にある不採算の郵便局も維持しようとする政治力が働く。リストラで、支店の統廃合を進めている民間銀行とは、ベクトルが正反対だ。

民営化後の郵政公社が高コスト体質を残したまま、民間と競争できるとは、とても思えない。郵貯・簡保という巨大金融機関が破綻したら、日本経済に与える影響は甚大だ。心配すべきは、迷いクジラが浅瀬で立ち往生することではないか。



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