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経済評論家 川野一秋
大商いでも盛り上り欠く兜町

東京株式市場で二月下旬から続いていた大商いの記録がこのほどストップした。日本経済が活気を取り戻しつつある中で、株価は昨年四月に底を打ったあと回復傾向をたどる。それに伴い日々の取引量も大きく膨れ、東京証券取引所第一部の出来高は二月二十七日から八十六営業日連続で十億株を上回っていた。これはバブル期をも超える過去最長記録だ。しかし、七月二日の出来高は約九億七千万株にとどまり、記録はついに途切れた。報道各社は「東証の出来高記録、ついにストップ」などと派手な見出しで書き立てたが、市場関係者の間では冷静な受け止め方が支配的。そもそも歴史的な大商いが続く割には、証券業界にはバブル期のような勢いはない。大商いでも盛り上がらない兜町という現象こそが、業界の現状を実によく示している。

一九八〇年代末、バブル経済がピークに達した当時の東証では、まだ立会取引が行われていた。取引所の中には証券各社の「場立ち」と呼ばれる職員でごった返し、押し合いへし合いしながら注文を出していた。市場内のあちこちから「ピー、ピー」と甲高い笛の音が聞こえたものだ。注文が殺到した銘柄は取引を一時中断して売り買いを整理するのだが、笛の音はその合図だった。この局面での大商い記録としては、八八年七月六日に東証一部の出来高が二十八億五千三百七十三万株、また八九年二月から三月にかけて二十日連続で十億株超がある。ちなみに日経平均株価が史上最高値三万八九一五円を付けたのは、八九年十二月末のこと。当然のことながら証券各社は空前の利益を上げた。

一方、今回の局面をみると、出来高十億超は八十六日連続、一日あたりの最高は四月十五日の二十八億六千五百十四株で、いずれもバブル期の記録を塗り替えた。しかし、証券会社幹部と話していても、八〇年代後半と現在とでは、元気のよさがまるで違う。バブル期の方が相当に威勢がよかったのである。

現在の大商いの主役はインターネットを通じて株式を売り買いする個人投資家と海外投資家が占めている。中には「デイトレーダー」と呼ばれ、一日に何十回も売買を繰り返す投資家もいる。売り買いを頻繁に行う投資家の場合、そのたびに出来高が加算されるため、実態以上に出来高が膨らんだように見えてしまう。市場全体の出来高が増えても、インターネット取引を扱う証券会社や海外投資家を有力顧客に持つ証券会社以外はその恩恵をあまり享受できない。

また、これだけ取引が膨らめば証券会社は多額の手数料収入を得られそうなものだが、株式の売買手数料は九九年十月に完全自由化され、大雑把に言えば、現在の手数料はバブル期の十分の一以下まで下落した。このため、同じ分量の注文を獲得しても、証券会社はかつてほどは儲からなくなった。記録的な大商いにもかかわらず、兜町のムードがいまひとつ盛り上がりに欠けるのは、手数料自由化の影響がいかに大きかったかを物語ってもいる。



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