header
経済評論家 川野一秋
株式市場で流行する錬金術
投資家の行動にも問題
株式市場で新手の錬金術ともいえる財務手法が大流行している。それは一株を十株や百株に分割する「大幅株式分割」と呼ばれるものである。個人株主作りや投資単位の引き下げに有効なため前向きな評価もあるが、一部の企業による大幅分割に対しては資本市場の冒涜だといった批判も出ている。

大幅な株式分割が何故、錬金術になるのか。最近あった実際の例を単純化して、その仕組みを見てみよう。ジャスダック取引所に上場するある企業が一月上旬に一株を百一株に分割すると発表した。この時点での同社の株価は約千円だったが、翌営業日から一週間ストップ高を続け、一時は二千五百円まで急騰した。

この会社の場合、株式分割後に一株あたりの年間配当金はこれまでの三円から三銭へと百分の一に減らすことを同時に発表した。株数は百一倍になり、配当は百分の一になるのだから、分割の有無にかかわらず株式の価値には全く変化はない。理屈通りなら、市場に流通する株数が百一倍になるのだから、株価は百一分の一、つまり十円弱になるはず。分割によって発行される新株の取引が始まると株価は直前の百一分の一から始まるが、同社株の場合は二十円からとなり、理論値のほぼ二倍となった。会社の株式の価値を示す時価総額も倍増する計算で、見事なばかり錬金術に成功した格好だ。

この企業の株価上昇の理由としては、取引に必要な資金が大幅に少なくなるため、より多くの投資家が購入できるようになることだと説明されている。しかし同社の場合、取引は十株単位であり、株式分割を実施しなくても一万円から投資ができた。分割後は二百円程度で投資可能となるが、果たしてここまで投資単位を引き下げる必要があるのかどうかは極めて疑問だ。結局、株式分割は単なる株価引き上げ策だったと言われても仕方がない。

株式分割を実施する企業の中には、投資家への利益配分の意味合いが強いケースや株価が数十万円もしている企業が投資単位を引き下げるために実施することもあり、全てが悪質とは言えない。だが、最近になって大幅分割を発表した企業の中には、思わず首をかしげたくなる例も少なくない。

一方、投資家はといえば、株式分割は値上がり材料だと、内容をよく吟味せずに短期的な値上がり益を狙って積極的に買いを先行させる。「自己責任で買っているのだからガタガタ言うな」との反論も聞こえてきそうだが、こうした投資家の行動が結果として、資本市場を悪用した錬金術を許す土壌を作っている。「投資家の見識」が感じられない現状には悲しい思いがする。



BACKHOME