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経済評論家 原田淳也
ペイオフ全面解禁で何が変わるか

今年四月からペイオフが全面解禁される。定期性預金だけでなく普通預金についても一千万円を超える元本・利子部分は預金保険の対象ではなくなる。預金者は、金融機関が破綻した場合の「預金の安全」を自ら守ることが求められ、そのために、金融機関の経営内容や財務状況を十分チェックして、その健全度を判断して行動する時代に入る。

だが、全面解禁まで残り二カ月を切った現在、金融機関の側にも預金者の対応にもそれほどの緊迫感は感じられない。前回二〇〇二年四月のペイオフ部分解禁(定期性預金のみ対象)当時と比べて、金融システムへの不安が大幅に後退したこと、その後の法整備などで金融機関の破綻対策(例えば、公的資金の注入方式など)が整ったことなどによるとみられる。

実際、前回は全体で百兆円近くの資金が移動したとされ、定期から普通預金への預け替え、大口預金の小口化、複数金融機関への分散化などが目立った。今回は、主に大口の普通預金が対象となるが、預金が全額保護される「決済用預金」が新たに創設されたため、当座預金を開けない中小・個人事業者などの「避難先」になると期待され、ショックを和らげている側面もある。このため、エコノミストらの試算では、全面解禁に伴う資金移動は、家計の個人マネーに限ればせいぜい十兆円程度だろうという。

とはいえ、ペイオフ解禁に伴い少なからぬ資金が動くことは間違いない。不良債権処理が進み健全度を回復した大手銀行に比べて、財務基盤の脆弱な一部の地方銀行や信金・信組などの地域金融機関にとっては、預金の移動や分散化はかなりの脅威となる。

ある調査機関が調べた都道府県別の個人預金の動向をみると、〇四年に入って以降、地域によっては個人預金の伸びが前年比マイナスに転じたところが出始め、しかも、その預金減少はその地域の地方銀行の不良債権比率の高さを反映しているという。北関東(福島、栃木、群馬)、中部(富山、福井、長野)、九州・四国(佐賀、高知)の各地域などがそれに当たる。

また、信金・信組の不良債権比率は、危険ラインとされる10%を超えるところが、ともに過半を占めるとされ、これは大手銀行の平均4・6%、地銀の平均6・3%(〇四年九月末)に比べて不良債権処理がまだ道半ばの状態にあることを意味する。だから、今回のペイオフ全面解禁は、都銀など規模の大きい金融機関ではなく、既に資金流出が始まっている一部地域の地銀や信金・信組の経営に影響する問題と言えるだろう。

信金業界では、決済用預金の設定などペイオフ対策を進めているが、ここでも財務基盤の優劣で二極化の傾向が著しい。このため、弱小信金への資金支援に取り組んできた信金中央金庫は、預金者の不安を招かないよう、業界の資金支援には政府の公的資金注入申請を義務付け、合併再編を後押しする方針を打ち出している。また、全国信用組合連合会も、自己資本比率が国内基準の4%を下回った信組に対する資本注入制度を設けている。

信金・信組の数は二〇〇〇年以降、信金が三百八十六から三百六へ、信組は二百六十五から百八十一へと激減したが、見かけ上の数は減っても財務基盤が飛躍的に強化されたわけではない。地域経済の低迷もあって弱小機関の前途は厳しい。ペイオフ完全解禁は、結局のところ、周回遅れの地域の弱小金融機関の再編を後押しする方向に作用することになる。



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