header
経済評論家 川野一秋
「ホリエモン・ヒエダッチ効果」
買収合戦報道は絶好の投資教育
株式市場を舞台にしたライブドアとニッポン放送の金融技術を駆使した戦いは、法廷闘争にも発展し、一段と激しさを増している。ニッポン放送が防衛の切り札として打ち出した新株引受権の発行は認められず、ライブドアが同社株の過半数を取得したことで、戦況はライブドア優位の展開。一方、ニッポン放送・フジテレビは、ニッポン放送が保有する優良資産売却を検討するなど焦土作戦と呼ばれる手法で対抗する構えで、両社の勝敗を見極めることは難しい。

今回の買収合戦を通じて、ライブドアの堀江貴文社長、フジテレビの日枝久会長は連日のようにテレビに登場し、対照的な主張を繰り広げる。双方の動きに対する世間の受け止め方は様々だが、兜町関係者の間で一致した見方がある。それは「ライブドアの行動により株式市場が世間一般に非常に身近になった」というものだ。

「TOB(株式公開買い付け)」、「議決権」、「新株予約権」、「ポイゾンピル」―これまでは証券市場の専門用語だったこれらの言葉が、新聞やテレビのニュースばかりでなく、ワイドショーでも取り上げられることによって、お茶の間でも語られる一般用語になりつつある。企業の株を買うことにより株主総会で取締役の選任などの議決に参加できること、企業の過半数あるいは三分の二以上の株を持つことの意味、新株の発行を伴う資金調達(転換社債や新株予約権の発行、第三者割り当て増資)が株価に与える影響などなど―証券投資の教科書を見ると解説してある基本事項だが、なかなか理解しづらいものだ。

ところが、ライブドアとニッポン放送・フジテレビの買収合戦では、株価のグラフや図を多用し、専門家の解説も交えながら、難しい話がわかりやすく報道された。また、「ホリエモン」ことライブドアの堀江社長、最近「ヒエダッチ」とも呼ばれるようになったフジテレビの日枝会長のキャラクターも株式市場のことを一般の人に身近に感じさせるのに大いに貢献したようだ。先日あるインターネット証券社長が「六十を過ぎた母の口から『TOB』という言葉が出て、腰が抜けそうになるくらい驚いた」としみじみ語っていたが、まさにそんな状況である。

株式市場の仕組みが理解できたからといって、資産運用には極めて堅実な日本人が一気に証券投資に前向きになることはないだろう。しかし、今年四月からはペイオフ(預金の払い戻し保証額を元本一千万円までとする措置)の完全実施が予定され、預金金利は史上最低水準に張り付いたままという状況下でのライブドア・ニッポン放送問題は、絶命のタイミングで浮上したことは確かだ。やや長い目で見ると、今回の買収合戦が現預金が過半数を占める日本の個人金融資産の構造を変えるひとつの契機になる可能性がある。



BACKHOME