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経済評論家 小倉豊
吉と出るか、ソフトバンクの買収劇
資本市場の裏技駆使したボーダフォン
ソフトバンク(孫正義社長)が、世界最大の携帯電話会社であるボーダフォン(本社英国)の日本法人を、日本企業による買収額としては過去最大の二兆円でグループの傘下に収めた。有線通信の日本テレコムと併せ、ソフトバンクは電波の通信インフラを手にする総合通信業への地固めができたといえる。ただ、この買収劇の裏舞台には、売り手と買い手の壮絶な情報戦と駆け引きがあったことがわかってきた。簡単に言えば、孫氏は情報戦に遅れをとって「高値づかみさせられた」との評が広がっており、生き馬の目を抜く資本市場の苛烈さを見せ付けられた形だ。

英ボーダフォンの最高経営責任者(CEO)であるアルン・サリーン氏は、孫氏とは旧知の良好な関係を維持してきた。両者の交渉での買収額は一兆七千億―二兆の間だったらしいが、孫氏側は一兆五千億円程度に値切ることも可能と見ていた。確かに日本ボーダファンは、NTTドコモ、auと並ぶ三大ブランドだが、他の二社に比べ契約台数などで大きく引き離されている。サリーン氏はグループ全体の業績低迷などで株主に突き上げられていた苦境にもあった。

場合によっては、孫氏有利に進みかねなかった交渉経緯を一気にひっくり返した要素は二つある。

ひとつは、孫氏側が日本ボーダファンの資産を三月いっぱいかけてじっくり査定し、日本国内で劣勢に立つ同社の企業価値を正確に把握しようとした狙いを、阻止したこと。端的には、海外メディアに両者が交渉中であることがリークされて、交渉が衆人環視に置かれ、市場の思惑を抑えるために合意を急ぐ必要が出たことだ。情報が流れたのは日本の三月四日土曜の未明、ロンドンは週末の夜であり、リークが英側であることは間違いない。

そして、それと軌を一にするように、英経済紙フィナンシャルタイムズに、投資ファンドのKKR、サーベラスという米系のハゲタカファンドが、一兆八千億円程度の買収額でソフトバンクのライバルに名乗りを上げたことが報じられた。サーベラスは、日本で不良債権処理に失敗して破綻した銀行や、その融資先企業の買収を次々に手中に収めているので、聞き覚えがあるかもしれない。もちろん、投資ファンド自身が巨大通信業を運営するはずもなく、手中にしてから大胆なリストラをし、より高値で売って利ざやを抜くのが目的だ。

おそらく、孫氏にとって、携帯電話を軸とした電波通信の基盤を一気に手に入れる誘惑は図り知れなかった。結局、買収金額は英ボーダフォン側の言い値の上限だった二兆円に決着した。こうした、あからさまなリーク戦術で値を吊り上げたサリーンCEOと、懇意の孫氏の間で、最終的にどのような戦いがあったのかは藪の中だ。

ちなみにサリーンCEOはインド系。インド人はIT(情報技術)分野に有能な人材を、世界に輩出していることは知られるが、金融分野などでも世界を股にかけて活躍している。経営破綻処理で四兆円(回収絶対不能なものだけ)もの税金を飲み込んだ旧日本長期信用銀行は、米系ファンドに買収されたが、新装成った新生銀行の中枢にはずらりとインド系の人材が名を連ねていることは、案外知られていない。アジアにおける経済競争で脅威なのは、何も中国だけとは限らないわけだ。



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