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経済評論家 原田淳也
「デフレ脱却」宣言の不毛な論議

政府は先週七月十九日公表の月例経済報告(七月)で、物価に関する判断を上方修正して、五年四カ月ぶりに「デフレ」という表現を削除した。ただ、再びデフレに後戻りする懸念もあるとして、小泉内閣の懸案だった「デフレ脱却宣言」は先送りされた。脱却宣言が見送りとなった背景には、七月報告の直前に日銀がゼロ金利解除に踏み切った(七月十四日)ことが大いに影響していると考えられ、景気・物価情勢に関する両者の微妙な判断のずれが図らずも表面化したと言える。

内閣府が毎月とりまとめる月例報告は、その時々の政府の公式の景気・物価情勢判断を示す。七月報告の「物価」に関して、内閣府は「足元は物価が持続的に下落するデフレの状況ではないが、再びデフレに後戻りする可能性がないとは確認できない」と説明する。従って、脱却宣言は「見送り」ということだが、一般にはいかにも分かりにくい説明だ。

例えば、日銀は今年三月に量的緩和を解除したが、その理由は、消費者物価に関する三つの解除要件(この中には、再び上昇率がマイナスに後戻りしないことも含まれる)を満たしたと判断したためであろう。デフレを消費者物価に限定して考えれば、既にこの時点でデフレは「脱却」していたことになる。

実際にそうならなかったのは、なぜか。政府側は今年三月に「デフレ脱却」の定義を定め、消費者物価に加えて、需給ギャップ、GDPデフレーター、単位労働コストという四つの指標を含め、それらの改善を見ながら「デフレに後戻りしないこと」を脱却の条件にしたためだ。つまり、デフレの定義を拡大解釈して、日銀が言う消費者物価のプラスだけでは「脱却宣言」はしないという考え方を取り入れたのだ。

これまで、小泉内閣による「デフレ脱却宣言」が内外から注目されてきたのは、何よりもそのことが日銀のゼロ金利解除と連動すると考えたからにすぎない。ところが、量的緩和解除で日銀を抑えきれず、さらに今回の利上げによって、政府の脱却宣言が市場に与えるインパクトはなきに等しい状況となった。だから、今や脱却宣言は「経済政策上の必要性すら疑われる状況」(政府首脳)ともなっている。

実際、内閣府が挙げる指標を見ても、需給ギャップは昨年十〜十二月期以降プラスとなり、GDPデフレーターも全体ではマイナスだが、国内需要デフレーターはプラス転換した。デフレを物価と景気の両面から考える伝統的思考から言えば、デフレ脱却表明を躊躇する理由はほとんどない。もともとデフレの太宗を占める価格低下は、経済のグローバル化に伴う輸入産品価格の低下や競争激化による価格低下の影響が極めて大きい。

デフレ脱却の論議を日銀の金融政策と絡めて「脱却宣言」をできる限り後ずれさせて、日銀を牽制しようとしてきた政府や与党の側の政治的な思惑はあえなく破綻したとも言える。もっとも、政府としては、今「脱却宣言」をすれば、日銀に追加利上げの口実を与えかねないという警戒感もあるようだ。経済を政権維持の政治的な道具に使ってはならない。




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