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経済評論家 小倉 豊
総合商社マンは主婦との対決に不戦敗
迷走か、丸紅のダイエー救済
故中内功氏が一代で築いた消費王国ダイエーは、絶え間ない事業拡大体質があだになり、バブル崩壊後のデフレ経済の中で巨額の負債と売り上げ低迷という病に苦しんだ。そしてついに、二〇〇四年末、国の産業再生機構に緊急入院して根本治療を余儀なくされた。それから一年半、かつては大衆向けのあらゆる消費財、レジャー、サービスを手掛けたダイエーは、食品スーパーに事業を絞り込まねば生き残れないとの「診断」を機構から受け、機構保有の全株譲渡を受けた総合商社の丸紅に引き取られることになった。

総合商社マンといえば、エリートの代名詞だ。丸紅はダイエーの経営権を事実上、手中にして「新たな小売り業モデルを構築する」と高言していた。しかし、これに対して流通大手企業の中からさえ「商社が食品スーパーを経営できるのか」との冷笑が、ずいぶん前から聞こえていた。

もっともらしい企画書はいくらでも書けよう。だが、小売業、特に食品売り場の現実を想像してみるといい。お客の大半は、その日、その週の献立を考えながら、少しでもおいしく、新鮮で、安く、目先の変わったものがないか、目を光らすプロの主婦だ。

冗談では済まされない。中内氏は戦後間もないころ、憧れの牛肉の大量仕入れによる安売りで大成功した。ただ、この成功体験を引きずり、バブルが終わっても、安いマグロがあれば大量に仕入れ、全国一律の安売りを続けた。冷凍のマグロとイカを適当にパックし、紅白で見栄えもいい。しかし、主婦層は徐々に、そんな見え透いた安っぽいものには見向きしないようになり、総じてダイエーの大量仕入れ・大量販売の思想は凋落した。

では、どうすれば近隣の競合店を打ち負かす人気を得られるのか。鮮魚に例えれば、小売業者の理想は、各地区、各店の責任者が、近隣の漁港の水揚げに絶えず注意を怠らず、新鮮で、季節感と地域色のある食材を、ほかよりも安く仕入れて売ることだ。それに、冷凍技術を生かして遠くから運んだ食卓の定番品を合わせて陳列する。

なおかつ、一パックをどのくらいの量にするかで値段も変わってくるのであれば、給料日には少々ぜいたくな食材を多めに盛る。給料日から遠ざかるに従い、値段のお得感に気を配り、さらに缶詰などをさりげなく鮮魚の近くに並べる。その日は晴れか雨か、暑いか寒いかも主婦の食卓のイメージを変える。当然、仕入れも陳列も変わってくる。

ここまで努力しても、お刺身一パック三百八十円の粗利益は二十円、三十円というところか。売れなければ廃棄損失だ。ダイエーの鮮魚は売れなかったのだ。ダークスーツにポケットチーフでいくらパソコンをたたいて見ても、「食品スーパーの革新的ビジネスモデル」などできはしないと思うのだが。

案の定、丸紅はイオン、ウォルマートという日米の巨大スーパーに対して、ダイエー経営の「パートナー」にならないかと水を向けている。丸紅は全面否定するが、産業再生機構に熱望・懇願して買い取ったダイエー株の一部をパートナーに譲渡するとの観測も流れる。ダイエーを手中にすれば、他の総合商社に比べて弱い食品部門をてこ入れできるという戦略はどうなるのか。既に、単独では食品スーパーの経営は無理と認めたも同然。丸紅は戦わずして負け、「いずれ全株手放してダイエーから撤退する」(流通大手)かもしれない。




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