header
経済評論家 小倉 豊
ソニーの名誉なき後退
任天堂に押され新ゲーム機値下げ
次世代家庭用ゲーム機競争の前評判で任天堂に押され気味だったソニーが、勝負が始まる前に値下げする後退作戦に出た。「爆弾発言ですが、日本で5万円を切る価格に値下げします」―。22日に開幕した国内最大のゲーム見本市「東京ゲームショウ」で、ソニー・コンピュータエンタテインメント(SCE)の久多良木健社長が突然宣言したのだ。SCEが11月に発売する「プレイステーション(PS)3」の希望小売価格は、当初6万2790円を予定していたが、これが4万9980円に大きく下がる。

ソニーはパソコン用リチウム電池が発熱・発火する問題が表面化しており、世界に広がる回収・交換のコストで、収益が圧迫されると懸念されて株価も軟調。PS3は、そんな暗雲を払拭する可能性を持った大型戦略商品だ。当初は、任天堂の次世代機「Wii(ウィー)」が2万5000円と大幅に安くても、「潜在能力を考えれば、恐れるに足りない」(ストリンガー会長兼最高経営責任者)と強気だった。高性能半導体を搭載し、「ブルーレイ・ディスク」と呼ばれる、フル・ハイビジョン映像を再生できる機能を備えているのが自信の根拠。確かに、画像は驚くほど高精彩で美しい。

だが、PS3に詰め込んだ超ハイテク技術が、思わぬ足かせになってしまってもいる。というのも、9月に入って量産化の遅れが表面化し、欧州発売の延期や年内の出荷計画の下方修正(400万台から200万台)を余儀なくされたのだ。ソニーにとって、PS3プロジェクトは初期投資に約5000億円を投入しており、失敗は許されない。

一方、ライバルの任天堂「Wii」は、「家族に敵視されないゲーム」(岩田聡社長)を目指し、コントローラーをラケットのように振って、テニスや野球などを親子で体感できるようなハード・ソフトを用意。これは頭を鍛えるゲーム「脳トレ」で大ブームを巻き起こした携帯型ゲーム機「ニンテンドーDS」の成功体験に基づく。子供からお年寄りまで支持を広げる同社の戦略はソニーにとって脅威になり得る。ハイテクを凝縮したPS3や、マイクロソフトの「Xbox360」と一線を画して年末商戦を制し、「次世代機競争ではまず抜け出る」(ソフトメーカー幹部)との前評判もある。

さらに、ソニーには石にかじりついても必勝を期す理由がある。

かつて、ソニーは家庭用ビデオの普及期にベータ方式を引っさげ、松下電器産業などのVHS方式と死闘を繰り広げ、敗北した。実は、今回、PS3が搭載しているブルーレイ・ディスクは、フル・ハイビジョン映像を長時間記録するのに不可欠な次世代DVD(記録媒体)の規格で、東芝陣営の「HD DVD」方式と競合関係にあるのだ。いずれは、ブルーレイかHDか、VHS・ベータ戦争と同様の勝者と敗者を生むだろう。

次世代DVDの再生機やレコーダーが普及するのはまだまだ先で、決戦には相当な時間があるとも言える。だが、ソニーのブルーレイ陣営(ちなみに今回は松下も同陣営)は、その方式で画像再生するPS3が広く普及すれば(目標は年度末に世界で600万台)、本格決戦の前に事実上の勝ちを決められる可能性があると期待している。

消費者と直結するメーカーは、何よりも販売不振による現場での値崩れを嫌う。ソニーはPS3を発売前に値下げするという大博打に出た。技術力で名を馳せるこの国際ブランド企業を支えるのは、パソコンでもオーディオ・ビジュアルでもなく、ゲーム機であることが改めて浮き彫りになった形だ。




BACKHOME