header
経済評論家 原田淳也
「いざなぎ超え」景気を喜ぶのは早い

日本の景気拡大がこの十月で、戦後最長だった「いざなぎ景気」(一九六五年十一月〜七〇年五月、五十七カ月)に並んだという。景気の先行きについても「国内民需に支えられて回復は続く」(十月月例経済報告)というから、十一月には「いざなぎ超え」が実現することは、まず間違いない。景気拡大は発足まもない安倍新政権にとって強力な「追い風」となるだろうが、多くの国民にとっては「これで本当に景気はいいのか」というのが、正直な実感だろう。

月例報告によれば、確かに、景気指標となる企業収益(改善)、設備投資(増加)、生産(緩やかに増加)、雇用情勢(改善に広がり)などは、総じて良好な数字を示している。消費については「伸びが鈍化」としたが、今後「企業部門の好調さが家計部門に波及する」として、景気拡大は持続するというのが、政府の景気判断のようだ。

しかし、今回の景気拡大局面にはいくつもの落とし穴がある。一つは、二〇〇二年二月以降の「景気回復」は、大企業を中心とする厳しいリストラと輸出拡大を原動力として実現した景気拡大であるだけに、その恩恵を受けられない人たちが多いという事実だ。

例えば、国税庁の調査では、〇五年の一人当たり平均給与所得は四百三十六万円で前年比二万円減、これで八年連続のマイナスとなる。給与総額は増えているのに一人当たり所得が減り続けているのは、賃金水準の低いパートや派遣労働、契約社員など非正規社員の比率が猛烈に増えてきたことが原因だ。所得の低下は、当然ながら消費にも影響する。さらに、大企業などの牽引役が不在の地方経済の疲弊が目立ち、大都市と地域経済の「格差」が広がっていることも、実感としての景況感に大きな影響を与えている。

実際、かつての「いざなぎ景気」と比べてみた景気拡大の中身の違いは歴然としている。例えば、期間中の実質経済成長率(年平均)は、いざなぎの11・5%に対して今回は2・4%(名目成長率は1・0%)と、ほぼ五分の一程度にすぎない。しかも、いざなぎ景気と違って、今回は消費者物価がマイナスとなるデフレ経済下の「成長」であったことも、マクロ的な統計数字と景気実感との乖離を生んでいる。

全体の景気は良いが、生活実感としての景気はあまり良くないというのは、好景気が一部の業種や地域に偏っていることを示している。極端に言えば「勝ち組と負け組をはっきりさせ続けるアンバランスな景気回復」(民間エコノミスト)とも言えるだろう。あるエコノミストによれば、グローバル経済に完全にリンクした国際的大企業とIT、自動車、素材関連などの「近代化業種」が高い成長を遂げることで、全体の景気を引っ張っているにすぎず、構造改革の遅れた非製造業分野の一人当たりGDPはむしろ減少しているという。

安倍政権は「再チャレンジ支援」を掲げて、これらの「格差」是正に取り組むとしているが、具体的な政策はまだ見えてこない。「成長重視」型の政策運営を目指すという政府は、いずれ大企業向けの政策減税や法人税引き下げに踏み切るのだろうが、一方で労働分配率を引き下げる方向に働く雇用リストラや賃金抑制の動きにしっかり歯止めを掛けないと、景気全体の底上げは難しい。細々した再チャレンジ支援策などを検討するより、政府として経済界に対して最低賃金制の確立や正規雇用拡大を求める方が、むしろ景気拡大を持続させる近道ではないか。




BACKHOME