header
経済評論家 小倉 豊
「京都」の誓いに苦悶する政府

地球温暖化の原因とされる二酸化炭素(CO2)の排出削減に向け、日本政府が大きな方針変更を迫られている。一九九七年に締結された京都議定書は、いうまでもなく日本が主導したもので、そこには、各国別の温室効果ガス(メタン、亜酸化窒素なども含む六種類)の削減目標が盛り込まれている。日本の場合は、九〇年比で二〇〇八―一二年はマイナス6%の削減を誓った。取りまとめ役としては、是が非でも目標は守らねばならないのだが、文字通りの「削減」はどうやらあきらめざるを得ない。実質的な目標達成が無理なら、形式的な約束の履行に舵を切らざるを得ないのが実情だ。

マイナス6%に向けた削減は遅々として進まないどころか、〇五年度には逆に8・1%増えた。背景は、原発の稼働率が思わしくないほか、コンピューターや大型家電などの普及率が伸びており、自動車の排ガス対策も進まない、というあたりが主な原因だ。この上乗せ分を入れて14%を削減しなければ目標に到達しない状況で、ほぼ絶望的。また、政府は6%のうち3・9%を森林整備で賄う予定だったが、林野庁はこのままでは2・6%の削減にしかならないと試算しているありさまだ。

しかし、京都議定書の中には、こうした苦境の国を救う「メカニズム」も組み込まれている。@他国から余剰排出枠を直接買う「国際排出量取引」A先進二国間で削減プロジェクトを行い、生じた削減クレジットを分け合う「JI」B先進国が途上国で削減プロジェクトを実施し、その際生じた削減分をその先進国のものとしてカウントする「CDM」がある。

日本が目を付けているのは、CDMの応用形の「GIS」(グリーン投資スキーム)というもの。これは、温室効果ガスの余剰枠を他国(広大な森林やツンドラを持つロシアなど)から買い、その他国は獲得資金を環境対策に充てるという約束をするものだ。ただ、その他国がどんな環境保護をするかは、さほど厳しく審査されないため、「結局カモフラージュではないか」という批判も出てくるかもしれない。

実は、もともと日本の「6%の誓い」の中の1.6%分は「メカニズム」活用で賄うことになっていた。今や、1・6%を超えて「メカニズム」を活用してはならない、というキャップのような役割になっている。安易に上乗せを認めたら、国内の企業などが削減努力をサボる恐れがある。だが、二〇一二年の期限に向けて、新たに「メカニズム」活用の目標を設定し直すのは時間の問題だ。

だが、各国担当者の必死の努力にもかかわらず、「気候変動」の動きは止まらないという無力感もただよう。専門家の集まりである「気候変動に関する政府間パネル」(IPCC)が次に示す報告書が注目されるが、危機感あふれる内容になるとみられる。前回報告では視野の外だった中国、インドなどの急成長が織り込まれるからだ。五十年後、百年後とされていた気候変動の悪影響が、実は五年、十年のスパンの問題になっている可能性がある。

つまり、既に影響は各地で起きている。CO2削減努力で「気候変動の緩和」を目指す段階はとうに超え、今後起こりうる気候変動やそれがもたらす水没などの災害にどう人類を「適用」させるかがクローズアップされそうだ。京都の誓いは既にむなしいものになったのかもしれない。




BACKHOME