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経済評論家 舟泊良章
株主の意向、無視できぬ時代に
東京鋼鉄の経営統合を否決
東証一部上場の電炉大手、大阪製鉄とジャスダック上場の中堅電炉メーカーの東京鋼鉄の経営統合が二月に開催された同社の臨時株主総会で否決された。大株主の独立系投資ファンド、いちごアセットマネジメント(本社東京)のほか、一般株主が反対したためで、経営陣が合意した合併・買収(M&A)が日本で初めて株主によって覆された。

今回の否決劇は、軽視されがちだった株主の意向を無視できない時代の訪れを印象づけたほか、再編が不可欠と言われる電炉業界の将来にも少なからぬ影響を与えるのは確実だ。

◆進まぬ電炉の集約
鉄鋼業界は高炉と電炉の二業態に分類される。電炉は、鉄鉱石や石炭から製鉄する高炉と異なり、不純物が多く含まれる鉄スクラップなどを原料としている。このため、自動車用鋼鈑や船舶用鋼鈑など高い品質が求められる鋼材を作るのが難しく、事実上、汎用品しか生産できない。

今年一月に急逝した新日本製鉄の千速晃会長は社長だった一九九九年、日本鉄鋼連盟の賀詞交換会であいさつした際、「鉄鋼再編の時が来た。まずは、電炉だ」と打ち上げ、会場を驚かせたことがある。二〇〇〇年前後は世界的に鉄鋼不況が吹き荒れていた時期。生き残りをかけた業界の集約が不可欠となっていただけに、会場には言いしれぬ緊張感が走った。

しかし、その後に起きたのは電炉ではなく高炉各社の連携や統合だった。新日鉄は住友金属工業、神戸製鋼所と資本提携して鉄鋼半製品の相互供給を行うなど事実上グループ化。川崎製鉄とNKKが経営統合してJFEスチールが誕生したが、電炉メーカーの再編は遅々として進まないまま推移した。

◆株主の不満
こうした中で、東京鋼鉄は昨年十月、株式交換を通じて大阪製鉄の完全子会社になると発表した。大阪製鉄は新日鉄の子会社。最大手の傘下で生きる道を選択したのだが、この直後から、証券大手モルガン・スタンレーで部長を務めた経歴を持つスコット・キャメロン氏が設立した日本株投資ファンド、いちごアセットが東京鋼鉄株の買い付けを開始し、一月十五日になって10.96%の株式を保有したと公表。前後して東京鋼鉄、大阪製鐵の首脳と面談し、株式交換比率の引き上げを要求した。両社から拒否されると、今度は経営統合の阻止に向けて一般株主から委任状集めを行い、二月二十日には議決権の31.9%を確保したと発表した。

企業の合併や株式交換、定款変更など重要事項に関しては株主総会での特別議決が必要。今回の東京鋼鉄と大阪製鐵の経営統合は、このケースに当たり、特別議決は議決権数の過半数の株主が出席し、三分の二以上の賛成が必要。否決が確実な中で、二月二十二日に開かれた東京鋼鉄の株主総会は反対が42.1%に達し、総会会場からは「東京鋼鉄には高い収益力があり、救済合併ではない」「会社側からの説明が全くない」といった不満の声が個人投資家の口から相次いだ。

東京鋼鉄の平嶋俊祐社長は株主総会後に記者会見し、「強固な経営基盤を確立する貴重な機会を失った」と悔やんだ。また、大阪製鉄の親会社である新日鉄は、今回の経営統合を機に電炉再編を加速するとともに、自社の経営基盤強化を狙っていただけに、戦略の練り直しを迫られることになる。

ただ、東京鋼鉄のケースに限らず、国内のM&Aをめぐっては「買収される企業の株主に十分な対価が支払われていない」との指摘は絶えない。企業統合をめぐっては、株主に対する丁寧な説明や配慮が欠かせなくなっているのだけは確かだ。

◆中国の攻勢
東京鋼鉄は今後、大阪製鉄との経営統合を白紙に戻し、独立経営を続けるとしているが、電炉業界には荒波が待ち受けている。

世界の鉄鋼業界はここ数年、中国の経済成長を受けた特需拡大を受けて未曾有の好景気を謳歌してきた。しかし、その中国が鉄鋼生産力を急激に拡大。昨年は純輸出国になり、今年は世界最大の鉄鋼輸出国となるのが確実視されている。

高炉各社は高級鋼材で中国に対抗できるが、電炉メーカーの品質は中国で生産される鋼材と同じレベルとされ、厳しい競争にさらされる可能性が高い。そうした経営環境の中で電炉は現在も約四十社が乱立している。

日本鉄鋼連盟の馬田一会長(JFEスチール社長)は東京鋼鉄の経営統合が否決されたのを受けて、「電炉メーカーの数は多い。電気料金の安い土日や平日夜に操業するなど過当競争に陥っている」と指摘した上で、「業界再編は必然だ」と強調。さらに、「今回の件で再編の流れが止まるとは思わない」との認識を示している。



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