header
経済評論家 舟泊良章
世界の鉄鋼地図、新段階に
新日鉄とミッタルが提携拡大
鉄鋼最大手アルセロール・ミッタル(ルクセンブルク)と第2位の新日本製鉄が戦略提携の継続、合弁生産の拡大に関して基本合意した。ミッタルが求めていた最新技術の全面利用は見送られたが、世界の大手2社が限定的とはいえ提携関係を明確にした意味は小さくない。新日鉄の三村明夫社長は「(ミッタルとは)協調と競争、緊張感のある関係だ」としているが、さらなる関係拡大に向けてミッタルが新たな動きに出ないとも限らない。

鉄鋼業界の世界地図は、ミッタルと新日鉄を軸に塗り替えられていくことになりそうだ。

◆3倍以上の生産力

アルセロール・ミッタルは昨年、既に世界トップだったミッタル・スチール(オランダ)が2位だったアルセロール(ルクセンブルク)を買収して誕生した。ミッタルは1989年にトリニダード・トバゴのアイアン・アンド・スチールを買収したのを皮切りに、北米や中南米、アフリカ、欧州など世界各国で経営難に陥った製鉄会社を買収・再建する手法で世界トップに躍進。欧州トップだったアルセロールの買収で粗鋼生産量は新日鉄の3倍以上に達している。

この買収劇と前後して新日鉄は、矢継ぎ早に企業防衛策を打ち出す。資本・業務提携していた神戸製鋼所、住友金属工業との3社で、敵対的な買収提案を受けた場合は対応策を共同で検討する覚書を締結。韓国の最大手ポスコと資本・業務提携を拡大したほか、ブラジルの鉄鋼会社ウジミナスへの出資を拡大してグループ会社化した。

◆提携網で対抗

国内外で提携網の強化を進める一方、昨年九月からミッタルと新たな関係の構築に向けた協議をしていた。

ミッタルは、旧アルセロールと新日鉄が結んでいた包括提携を継承し、欧州に進出した日系自動車会社の生産拠点向けに、新日鉄の技術供与を受けて生産した自動車用鋼板を供給している。
 
この協力関係を踏まえてミッタルは、新日鉄の持つ最新技術を世界各地で利用できるよう要請。しかし、新日鉄にとって技術的な優位を保つことは生命線ともいえる。ポスコやウジミナスとの関係を深めることで一種の対抗軸を形成した上で、ミッタルの要求をなんとか拒否した。ただ、欧州での協力は継続するとともに、北米で行っている合弁生産の拡大で基本合意。また中国では同国最大手の上海宝鋼集団を加えた3社合弁生産を拡大する方向で協議している。 

◆限定的な協力

今回の包括提携拡大は、世界に展開する日本の自動車メーカーに鋼板を安定的に供給することに主眼が置かれている。ミッタルはこうした限定的な協力に満足するかどうか。

買収に次ぐ買収で巨大化したミッタルだが、アジアには本格的な生産拠点がなく、東アジアで新たな買収に打って出るとの観測は消えない。

一方の新日鉄。グループ会社化したブラジルのウジミナスが新たな製鉄所の建設を計画している。ミッタルとの関係が仮に切れた場合に備え、ブラジルから北米や南米に鉄鋼製品を容易に供給できる体制を整えておくための布石も見える。

ミッタルと新日鉄は、北米や欧州、中国における自動車用鋼板の生産や供給で協力するものの、その他の分野・地域では激しく競合する関係に変わりはない。包括提携で合意したものの、両手で握手するのではなく、あくまで片手。もう一方の手にそれぞれが刃(やいば)を隠し持っていないとも限らない。




BACKHOME