header
経済評論家 舟泊良章
低賃金労働、人権侵害も
外国人の研修制度、曲がり角に
外国人を対象とした研修・技能実習制度が曲がり角を迎えている。当初の狙いは途上国への技術移転だったが、制度を悪用して低賃金労働者として雇用するケースが続出。2006年に労働基準監督署が労働基準法などに違反したとして監督・指導した事例は1209件(前年比65%増)に上った。米国政府が人権侵害や人身売買につながる懸念があるとして、廃止を提案しているほどだ。

◆時給は300円
 
外国人に対する研修が始まったのは1960年代にさかのぼる。海外の合弁工場などで即戦力となる技術者の育成が狙いだった。1980年代には急速な円高に対応するため東南アジア諸国などへの工場進出ラッシュが起きたこともあって、研修者の受け入れが増加。バブル期には人手不足対策の色合いも濃くなっていく。

当初は大企業が単独で研修生を受け入れていたが、1990年に中小企業団体が窓口になれるよう制度を改正。小規模な事業所でも研修が可能になった。

1993年に整えられた現行制度は1年目が研修。その後2年間は雇用契約を結んだ上で技能実習を行う。年9万人が入国しているが、技術移転を支援するという理想からはほど遠いのが実態だ。かねてから、パスポートを取り上げて自由を奪ったり、時給に換算すると300円という低賃金で働かされていたりといったケースが報告されている。特に深刻な事態が起きやすいのが1年目の研修期間。雇用契約が結ばれていないため、労法規が適用されず、劣悪な条件で酷使される状況の素地となっている。
 
労基署が2006年に指導・監督した1209件の内訳は、労働協定を結ばずに残業などをさせるケースが573件でトップ。次いで、残業代の不払い・減額が499件、賃金不払いが355件などとなっている。

この研修・実習制度には米国からも懸念が出ている。レーゴン米国務省人身売買監視対策室長は7月に来日し、廃止検討を政府に提案。その後の記者会見で、「(研修制度は)使い方によっては労働者が(借金により)実質的な拘束状況に置かれてしまうことになる」「強制労働や性的労働につながる恐れがある」との見解を示している。

◆不可欠な労働力

日本は単純労働への外国人の就労を認めていないが、研修・実習制度は製造業だけでなく、建設や農業、漁業など62職種を対象としている。中小企業に加え、農家が受け入れているケースも多い。「外国人がいなくては存続していけない」という声は、新規就労者の少ない縫製業や農漁業の現場で聞かれている。多くの産業が既に外国人を「労働力」として組み込んでいるのが実態だ。

総務省の労働力調査によると、2006年1月時点の建設業労働者は550万人で、ピーク時の1997年から100万人以上減少し、50歳以上が44%を占めた。建設業は公共事業の削減が続いているものの、民間の工場やビル、マンションの建設が大幅に増加。建設事業量はここ数年、横ばいで推移し、人手不足が起きている。外国人のさらなる受け入れは不可避だろう。

研修・技能実習は、外国人の単純労働を認めないという建前と、外国人なしでは立ち行かない産業界の本音の狭間で制度疲労を起こし、悪用が頻繁に起きている事態は、もはや覆い隠すことはできない。厚生労働省と経済産業省が中心となって研修・実習制度の見直し論議が進んでいるが、建前を排した本音の議論を始める時期に来ているのだけは間違いない。




BACKHOME