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経済評論家 原田淳也
「急がぬ利上げ」そのこころは

日銀は8月23日の金融政策決定会合で、現行金融政策(誘導金利0・5%)の維持を決めた。日本経済は引き続き堅調だが、米国のサブプライムローン問題に端を発した世界の金融市場の動揺もあって、あえて「利上げを急ぐ必要はない」と判断したようだ。

福井俊彦総裁は「他国の金融政策の影響は受けない」と強調するが、9月にはFRB(米連邦理事会)の利下げとECB(欧州中央銀行)の利上げ見送りが想定されるだけに、日銀が単独利上げに動く可能性は極めて低くなった。一部エコノミストの間では、米経済の下振れリスクが解消するまで「少なくとも年内の利上げは難しい」との見方もある。

昨年7月のゼロ金利解除から1年以上経過し、この間市場金利はわずかに上昇したが、企業行動や国民生活に影響する金利のレベルは依然低水準のままだ。1000万円の1年定期で年間利子所得はわずか3万円程度(税引き後)にすぎない。一方の企業は超低金利と円安の追い風を受けて、空前の企業利益を積み上げてきた。しかも、その企業利益の配分は、労働コストの抑制という形で家計への波及は思ったほど進んでいない。

中央銀行の金利政策は、通常、景気情勢やインフレ動向を先読みして金利を操作するとされる。しかし、「福井日銀」はこれまで、「デフレ脱却」を唱えて成長重視を掲げる時の政府に配慮してか、堅調そのものの経済を横目に、あえて利上げを急ぐことはなかった。

その背景には、低金利による資本流出を促し(円キャリートレードの横行)、為替の円安基調の下で輸出企業を後押しして景気回復を図るという狙いがあった。さらに、低金利によって、預金者の金融行動を株式や投信などのリスク性商品に向かわせる政策的な思惑も働いたに違いない。また、金利上昇に伴う国債費の増大阻止も考慮してのことだろう。

だが、これらの政策意図のどれをみても、国民生活に十分配慮した形跡は窺えない。年金不安が広がり、政府への信頼が地に落ちた今、将来の生活をどう支えていくかを考えれば、今の預貯金金利の水準はあまりに低過ぎる。といって、株式投資などに向かえば、今回のような世界同時株安が突然襲ってくる。家計の自己防衛といっても自ずと限度がある。

金融政策における金利機能は、第一に変動する経済や景気の調整機能であろう。だが、マクロとミクロの景気実勢があまりに異なる現状では、利上げによる金融資産の利子所得回復の経済効果をもっと重視すべきではないか。かつての金融危機の時代、異常なゼロ金利政策によって家計の利子所得の大半は金融機関へ移転した。今は、その借りを返す時期でもある。マクロ景気の堅調さが雇用や賃金のルートで波及しない以上、日銀は政府と同様、自らの経済回復仮説(地方経済、中小企業への波及)を見直すべきだろう。

利上げといえば、景気へのマイナス効果ばかりが焦点となるが、1400兆円の金融資産の規模から見て、日本の場合は消費需要の喚起を通じたプラス効果の方が大きい。いくら株や投信、FXなどリスク性商品の世界に国民を追いやっても、当局の「政策ミス」による損失は誰もカバーしてくれない。「福井日銀」は、歪み切った企業と家計のバランス回復に今後どう乗り出すのか。安倍改造政権とともに、その正直度が改めて問われる。




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