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経済評論家 舟泊良章
罪深い官僚・政治家の不祥事
不人気政策が不可避なのだが…
自民党が先の参院選で大敗したのは記憶に新しい。年金記録のずさんな管理、官僚の目に余る天下り、さらには「政治と金」をめぐる問題などが衆目を集め、官僚や政治家への不信が噴出したのが要因だった。中でも最大の批判を浴びた年金をめぐっては、保険料の引き上げや増税といった国民に痛みを強いる政策が今後必要になってくるが、政府・与党への信頼が失われた状況では実行に移せるかどうか。罪深い事態だ。

有権者と政治家・官僚の間に「信頼」を醸成するとはいかないまでも、不信感だけはなんとか軽減するのが喫緊の課題だろう。

そんな現状をみるにつけ、第1次大戦後の不況期に首相として緊縮財政を断行し、それでも国民の支持を受けて総選挙で勝利した浜口雄幸が思い出された。少し長くなるが足跡を辿ってみたい。

浜口は通貨制度を金本位制に復帰させた政治家として知られる。金本位制は金保有量の範囲内に通貨供給量を抑える仕組みで、日本は第1次大戦中に軍事支出拡大の必要から他の列強諸国と同様に停止した。

第1次大戦後、英仏などは早い段階で金本位制に復帰したが、日本は先送りを繰り返していた。政府財政の引き締めを嫌ったためだが、浜口は昭和初期の金融恐慌が吹き荒れる中で、歳出カットを実施・継続し、金本位制への復帰条件なっていた為替の円高誘導を進めた。

その狙いは分かりにくいかも知れないが、簡単に言えば、円高下でも国際競争に勝てる筋肉質の経済力をつけるべきだとの信念に基づいた政策だった。この過程で浜口は高級官僚を中心とした公務員の給与1割カットを打ち出している。世論の反対を受けて実施は断念したが、政府官僚が「耐乏生活」を受け入れて国民に範を示すべきだとの意思の現われだった。また当時は、軍部が台頭していたが、平和主義・国際協調を掲げて軍事費の大幅削減を行っている。

緊縮財政が不況を悪化させたのは明らかで、経済政策としては失敗だったとの指摘もある。しかし、料亭政治を嫌い、不人気政策の必要性を真摯に訴えた浜口。謹厳実直な人柄もあって国民的な人気は高く、金本位制に復帰した直後の総選挙で浜口率いる立憲民政党は勝利している。

浜口は首相に就任した際、暗殺されるのを覚悟していたと語っている。その言葉通り、右翼団体構成員の凶弾を浴びて命を落とした。まさに命がけで国際協調・軍縮や経済改革に取り組んだ。その真摯な政治姿勢、ぶれのない政策スタンスや手腕は現在の政治経済情勢の中でこそ必要になる。

年金問題は、納付記録の消失といった事態に怒りが向けられているが、最大の懸案は団塊世代が給付対象となるのを間近に控え、将来も制度を維持できるかどうかにある。税で給付を賄う割合を増やしていく必要があるのは明らかだが、政府財政は火の車といっても過言でない。

国債や借入金などを合計した「国の借金」は2006年度末で834兆円に達し、過去最大を更新。国民1人当たりの借金は約653万円にも達した。さらに、地方債などの地方自治体の借入金残高201兆円も国民が税金で返済しなくてはいけない。日本の債務残高は先進国の中でも群を抜く高い水準だ。

医療などの社会保障の支出も増加が必至なだけに、増税や各種保険料アップは今後、避けられそうにないが、政治家や官僚が負担増の必要性を有権者に説き、理解を得られる環境にあるだろうか。

いわゆる「消えた年金」問題に加え、公務員による年金着服が多数発覚し、その犯罪行為を自治体が告発しないケースまで露呈している。厚生労働省の九州厚生局長が社会福祉法人の元理事から高級車などの供与を受けていたことも批判を浴びた。有権者の怒りの根底には、現実の負担感に加え、行政を執行する官僚・公務員、さらには政治家への不信感があるのは間違いない。この不信感が払拭できなければ、負担増に有権者が納得するはずはない。

不況下での緊縮財政という不人気策の必要性を謹厳実直に語り、庶民の理解を得た浜口雄幸は、首相就任時まで借家住まいで生活は質素だったという。



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