header
経済評論家 小倉 豊
松下の社名と決別
成長の軸足海外に
新年早々、松下電器産業が社名変更と製品ブランドの統一を発表した。伝説の経営者である故松下幸之助氏が1918年の創業以来使い続けてきた「松下」の名と決別し、映像・音響(AV)機器に冠している「パナソニック」を新社名とする。日本でこそ松下電器の名は親しみを持って迎えられているものの、海外では、ブランドと社名が違うのは大いに不利で、ソニーや韓国のサムスンに対抗し、成熟市場の日本から収益成長の軸を移そうという経営の意思を明白にした。

同社には親しまれたもうひとつのブランドとして「ナショナル」もある。こちらは、故松下氏が「国民のために」との思いを込めて考案したもの。だが、松下、ナショナル、パナソニックの三つの名称は、消費者のイメージにダイレクトに訴えかけるには煩雑でもある。

現在、ナショナルは洗濯機、冷蔵庫、エアコンなど「白物家電」用のブランドとして、国内で使われており、パナソニックよりもなじみが深いくらいだが、松下の大坪文雄社長はそれとも決別して、パナソニックに一本化する決断を下した。

松下米国法人首脳は、同社の消費者への浸透度合いに関して「パナソニックも既に一流だが、ソニーほどの超一流のブランド力はない」と率直に語っている。実際に、欧米の売り場で、目立つスペースの獲得争いをすると、いともたやすくサムスンに有利な場所を奪われるのだという。

それもそのはず、ソニーの海外販売比率は7割、サムスンは8割を占める。松下は5割だ。同社の目標として2009年度に連結売上高10兆円(06年度は9兆円強)を目指すが、その拡大の方向は成熟した国内市場ではなく、海外市場に求めるしかない。巨大市場の米国では、注目の薄型テレビで、シャープ、ソニー、サムスンが上位にいるのに対し、「パナソニック」は5位にも入っていない。

ブランド力とは恐ろしいもので、松下の連結売上高はサムスンを約2兆円上回るが、株式の時価総額はサムスンの6割程度でしかない。大坪社長は発表の会見で、創業者の名前という「ノスタルジー(郷愁)よりも成長の可能性を取る」と顔を高潮させて力説した。

早速、当面の販売拡張策として、同社にとって白物家電の空白地帯だった全欧州地域にパナソニック・ブランドで進出することを表明した。新興国のBRICs(ブラジル、ロシア、インド、中国)では、デジタルAVと白物家電を併せて08年に5000億円の売り上げを目指す。

社名変更とブランド統一という経営陣の決断に対して、創業家出身の松下正治相談役名誉会長と松下正幸副会長は、打診を受けたその場で賛意を示したという。やはり、少子高齢化を控えた国内市場への、ある種の危機感の表れではないだろうか。伝統ある「松下」を捨て、パナソニックというやや長たらしいブランドが、あたかも無国籍のように世界を闊歩することができるのか。何か、今後の日本経済の将来を占う試金石のようにも思えてくる。



BACKHOME