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経済評論家 小倉 豊
インドの超低価格車で革命?
新興国中産階級勃興の象徴とも
1月にインドの首都ニューデリーで開かれた自動車ショー「オート・エキスポ」に、同国の大手タタ・モーターズが出展した超低価格車「ナノ」は、世界経済の将来を考えさせる興味深い存在だ。

ナノの価格は10万ルピー(約27万円)。軽自動車に強いダイハツ工業の箕浦輝幸社長は、「普通は材料代だけで27万〜28万円にはなる」と、日本メーカーが対抗すべき相手ではないとする。タタ社の首脳自身すら、採算に無理があるかのようなコメントを発している。では、何が画期的なのか。ナノの顧客ターゲットが、新興国インドの中産階級に置かれている点だ。10億人を超える人口を抱えるインド、中国などに中産階級が育っているとすると、将来振り返ったとき、これまで世界の消費を支えてきた米国に代わる、新たな担い手の誕生を示す画期となるかもしれないからだ。

現に、フィナンシャルタイムスは、この車を「新しいT型フォード」と持ち上げた。やや先走りの論評の感もあるが、経済分析で一流の欧米メディアが注目するだけに示唆に富むのは確かだ。

T型フォードは1908年に登場。それまでの熟練工の作業を要素ごとに分解して、ベルトコンベアーによる単純生産作業の集積に組み直し、早く低コストで均質な大量生産の時代の幕を開けた。それ自体が革命的なのだが、別の側面は、それまで1000jをくだらなかった自動車の価格が850j程度で手に入ることになった。当時、米国に登場しつつあった中産階級が、世界経済を牽引する消費の主役になる転換点になり、さらには世界各国にも広く普及したのだ。

T型フォードは、生産方式に革新をもたらしたのみならず、近代が現代に移行する消費構造の変革を先導した。ちなみに、四輪車の生産台数としては、2100万台を生産したフォルクスワーゲン・タイプ1に次ぎ、1500万台以上を売り上げている。

米国の格差社会化は日本の比ではなく、中産階級の疲弊は指摘され続けている。大統領選挙後に政策がいささか変わろうとも、その趨勢が大きく後戻りすることは、今のところ想像しづらい。

ナノは、インドをはじめとする新興国で、中産階級として登場しつつある人々が買う最初の自家用車になり、彼らが消費の主役になっていくのか。それとも、タタ・モーターズがほんのひと時咲かせた、現実離れしたあだ花に終わるのか。米国中心の先進国による協調の影響力が薄れ、わたしたちが視界不良の混沌の中にいるのは間違いない。



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