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経済評論家 小倉 豊
企業栄えて民滅ぶ?
はっきりしてきた家計へのしわ寄せ
今年の春闘では、労働側が、企業業績の増収増益維持に加えて「可処分所得を増やして内需(個人消費)の活性化を」とのスローガンを掲げているが、経営側は、低所得者向け高金利型(サブプライム)住宅融資を発端とする米国発の世界経済減速を盾に、固い守りの姿勢だ。ぶつかる論戦のどちらに軍配が上がるのだろうか。

焦点は、企業経営の好調を維持するために、家計が疲弊しつつある事態に、経営側が大局的な見地から判断を下せるかどうか。今や流行らぬカール・マルクスではないが大企業の経営者たるもの、「資本」が単に擬人化された存在か、それとももっと意味のある経済社会運営のノーブレス・オブリージュ(「高い地位には責任が伴う」)を担っているのか、審判が下るのだと見たい。もちろん企業と社員が共倒れになっては元も子もない。判断は難しい。

予備知識として持っておくべきなのは、近年の企業収益の構造変化だ。第1点としては、原油をはじめとした原材料高により、2008年1月の企業物価(卸売物価)は前年同月比で3・0%もの上昇を示している。一方、07年12月の消費者物価(生鮮食品除く)は0・8%上昇にとどまっている。主要企業が増益を維持しているのは、生産・流通・小売り段階でコストを吸収しているためだろう。ただ、増益ペースは明らかに鈍っている。

注意すべき第2点は、このコスト吸収にあたって販売管理費、特に人件費にしわ寄せが来ていることだ。財務省の法人企業統計を見ると、少なくとも製造業では、かつては原価率が上がると収益が悪化する明確な相関関係があった。さらに、売上高に占める販売管理の比率は、売り上げが減ると上がっていたのだ。これは、人件費を簡単には下げられないため、分母が小さくなっても分子は下がりにくかったことを意味している。

しかし、03年以降は、原価が上がると、販売管理費の比率も低下するようになっている。直近でも、大企業では原材料価格の上昇に対応して人件費を切り下げ、持続的に売上高に占める営業利益(資金調達コストや特別損益を除く裸の企業利益)の比率は、持続的に上昇した。とりわけ、パート、アルバイト、派遣、契約社員が調整弁になっているのは間違いないだろう。

連合(高木剛会長)も、春闘でこの問題を大きな柱に立てている。高木氏が会長に就いたのも、出身母体であるUIゼンセン同盟が、スーパーのパートなどで構成員とする組合を内包していることが大きかった。

企業は世界経済の減速と原材料高を背景に、販売管理費比率の引き下げのため賃金抑制姿勢を強めるだろう。営業利益率の上昇を維持するのは、資本市場における「企業価値」の維持・向上に大きく貢献するからだ。

そのしわ寄せは既に家計部門に向いている。1月の内閣府の景気ウオッチャー調査(小売店主やタクシー運転手からの街角景気調査)の現況判断は10カ月連続で悪化し、6年ぶりの低水準に落ち込んでいる。エコノミストは「家計が物価上昇で購買力を失いやすいことが内需低迷に拍車をかけている」と指摘する。

迂遠な話だが、政府は内需中心の持続的成長の経済構造構築を目指して「第二前川リポート」を作るそうだ。前川リポートは同じような狙いで1986年に策定されたが、87〜88年に発生したバブルで理念は吹き飛び、実現されたのは週休2日だけだと酷評する向きもある。かつての骨抜きリポートのネーミングを借りてくるだけでがっかりするのは私だけだろうか。

企業業績は目先、輸出拡大に依存できなくなった。短期的にも、中長期的にも内需の重要性が増しているのだとすれば、大企業経営陣から春闘でどんなメッセージが発せられるのか不安と期待を抱かざるを得ない。



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