| 『新装版 霞ケ浦風土記』 書評「『霞ケ浦風土記』『MEMORIES OF WIND AND WAVES』を読む」川村安宏 |
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私は、霞ケ浦といえば、いつのころからか、漁業をするところというより、近年環境問題で話題になる大きな水瓶というイメージを持っていました。それがこの本で、一昔前、湖は生きていて人々はそれと調和して暮らしていたことを、豊富な例で知りました。英訳者のカーペンターさんは前書きの12ページで次のような趣旨のことを書いています−−この本のなかの人々が、自然の美しさを全身で感じていることを知り、私は感激した。もし美しい自然が失われ、われわれの周囲の美に対する意識が鈍化し、自然の重要性を忘れるようなことになれば、生活が豊かで便利になった代償は高すぎたことになる。 同じく9ページで、カーペンターさんは著者と一緒に語り手の家を訪問した印象を次のように書いています。「佐賀先生は人々の話のすべてに熱心に反応していました。新たな発見に真剣な興味と驚きを見せました。先生の語り手にたいする深い親しみと敬意、彼らの話から出来る限り多くのことを学ぼうとする姿勢は立派なものでした。また語り手が先生に持っている親しみと信頼も同様に素晴らしいものでした。この本に細部にわたる話がこんなに豊かに含まれているのも当然と思います。佐賀先生をおいて、誰がこれほどの時間を使い、この人達の生活の細部にこれほどの共感を持ち、このような豊かで説得力のある話を引き出し得たでしょう。」 英訳本を読んでまず感じたことは、カーペンターさんは、この本の世界を自分の世界として、その中にどっぷり浸かっている、ということです。それは上の短い引用からも窺われます。この本は良い英訳者を得たと思います。 以下、英訳を読んで気づいた点を述べてみます。この本は原著の全部の逐語訳ではありません。本のページ数の制約もあったでしょう。編集者は外国の読者の興味も考えたでしょう。原著では38話ありますが、英訳は30話です。訳された章のなかでも省略されたところ、順序をかえたところもあります。ちなみに、著者の前書きは、初版のあとがき、新装版のまえがき、あとがきを、アレンジして4ページにまとめたものです。こういうことは、翻訳の場合、別におかしなことではありません。よく引かれる有名な例は源氏物語のアーサー・ウヱイリー訳です。原著へ忠実であることも大事ですが、出来上がったものが、作品としていいものであることが、より大切なのでしょう。 茨城の方言で語られた話をどう英訳したのでしょうか。カーペンターさんの英訳は口語的、俗語表現を多用していますが、文法構造は学校で習う標準的のものです。辞書さえあれば読めるし、文章には勢いがあります。very angry(たいへん怒る)と言うところを、good and madといった具合です。もう少しあげれば、scare the living daylights out of-(人のどぎもを抜く)、fare(船、タクシーなどの乗客のこと)、live it up(気楽に遊ぶ)。口語的英語を勉強するにはいい教材になると思います。 英訳本でチェックして欲しい所を挙げてみます:p48、L15、the canalは Sekiyado ではないか。利根運河が出来たのは1890年(明治23年)だし、ここは江戸時代の年貢米運搬の話だから。原文(初版p65)にも関宿とある。p54、L15、to pole downriver from Ohori to the canal は upriverではないか。利根運河は小堀の上流にある。ちなみに、現在の小堀は取手の鉄橋の下流1`の千葉県がわにある。 p130、L23:raigyoはloach(どじょう)、原文初版p220は「蛙の代わりにドジョウを付けるとウナギがとれる」p158方にSakibama,Watabikiとあるが、正式にはSakihama, Watahiki。ただこの地方(出島)では訛って Sakibama というそうだ。Watahiki は姓だが、Watabikiと訛るひとがいるのかもしれないが、分からない。p23、L2の UkijimaはUkishima か。ほかのところでは Ukishima となっている。p136の Suikaido は Mitsukaido.p148、p161、p184などの薪や材木の話で、山を mountainと訳してあったが、この地方では平地林か、せいぜい岡程度の山なのだが、どうなのだろう。p16のKazuko Hirose は Professor Kazuhiko Hirose.p184、L12、was はit. 最後に、カーペンターさんの訳(p101−2)を原文(初版p160、新装版p148)とともに紹介します。 「二里以上も漕ぐだよ。エカーイ風だよ。それさ向かって漕ぐだよ。波が舳先さぷつかって、ぐぐっと船をもちゃげる。そいつを櫓でグッと押すつうと、次の波の頭さ舳先が勢い良くぶつかる。そうするつうと、波が二つにバサッとぷっかけて、飛沫が飛ぶべ。それが櫓んとこまで飛んで来て、顔にあたるつうと気持ちがいいんだよ。そんでむきんなって、ぐいぐいって櫓を漕ぐだよ。」 I just rowed for all I was worth, doing fivemiles at a stretch, easy, heading into a stiffwind. The waves would slap against the prow and lift the boat up, and I'd push with my oarso we came down smack into the crest of the next wave, splitting in two and making the spray fly. It splashed up where I was standingand hit me in the face, and that was a spur. I'd rowharder than ever. I loved every minute of it. 原文もいいが、この英訳もそれに劣らず素晴らしいと思います。 (茨城大学名誉教授) |
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