『日本及び日本人に寄せる』の構成

自序 7
第一章 世界はどこへ行くか 9
 日本の治安はどうなるか 10
 成長経済に世界中で終止符 18
 日中条約の今後 32
第二章 歴史は失敗から新機が生まれる 47
 汪精衛の思想と行動 52
第三章 民族の精神統一と世界の思想統一 93
 民族の精神統一には中心が問題 96
 大自然の法則が世界を決める 97
第四章 公準無と物質生滅 103
 意志や息の法則 113
 陰陽変化の法則 121
 無限時空と有限時空の統一法則 153
 連続性と不連続性の統一法則 159
 循環の法則 171
第五章 世界の文明史には正統がある 181
第六章 産業国家主義を改革する 201
 産業革新案 202
 政治革新案 208
あとがき 230

「自序」より
「始めに言葉ありき」

今日ただ今の時点で最も必要なものは正しい言葉、真実の言論、正統の思想を述べることである。

道の字はみちと読んでいるが、もとは言であり、言とは花の咲く音である。花弁の筋は花が咲くのにつれて生じてくる。言も道の前にあったのである。それでなければ、みちに従う言は腐り、みちにはずれる言は乱れる。今、歴史の不連続の節に当たって、まず清潔な言葉が欲しい。

私は中国人である。日本人とは他の民族とより話をよく通じさせることができると思う。今の時期の日本人はとくに私の話にも耳を傾けて聞いてくれるだろう。

日本は現実に世界的な経済不況と、険しい外交形勢に臨んでいる。この著では、まずこれに対応して、現状の原因を説明し、時代の主題の所在を突きとめ、間違いをただして新しい時代を啓こうと説いている。

歴史上一つの時代を啓くには思想をもってである。何世紀おきかの物理学や天文学上の大発見に新しい哲学の解釈を加えて、大自然と人の世の在り方を知れば、嬉しくなって行動をもって千年の歴史に今の花を咲かせることができる。そして私は今世紀の物理学や天文学上の大発見に、大自然の五つの基本法則を説いているのである。

大自然の五つの基本法則は、万物の公準であり、しかもわが創造によるものである。

いまの産業国家主義は切り替えるべきであることを知ってそれを実行する。これが現代の世界の課題であり、日中両国人の使命である。

それにはまず現状を通り抜けてゆかなければならない。その為には日本と中国が清末以来今日までたどってきた結び付きの在り方を説明し、それに今の時代の主題である産業国家主義を切り替える為の、政治制度の新案と産業制度の新案を提起している。

この著は「常陽新聞」の岩波健一氏と大塚益夫氏の勧めで発意し、国学院大学の小山奈々子君が文章を工夫してくれて本になったわけである。これで私が、永年日本の好い人と好いものから承った教えの恩返しともなれば幸いと存ずる。

数年前、岡潔博士は私に「易経を読むのに好い本がありますか」と聞かれたが、私は答えに困った。今この著を先生に捧げようとする時、先生は他界された。

郢人を失いて惜しみあり。

戊年八月
  胡 蘭成

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